文春オンライン

「天安門30周年」直前にツイッターが凍結された中国ライターの顛末

2019/06/10
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「中国当局からの大量の通報はなかった」

 やがて日本時間の6月1日23時過ぎ、ツイッター社は公式ツイートで謝罪声明を発表した。こちらによれば、スパムを潰す日常的な措置のなかで、規約に違反しているアカウントを多数凍結したところ、対象外であるアカウントも誤って凍結したとの説明だ。「(特定アカウントの凍結を要求する)中国当局からの大量の通報はなかった」ともいう。

 事実、私や他の日本国内の大部分のアカウントについても、同日夜の19時30分ごろまでに凍結が解除された。ツイッター社からは翌日午前3時過ぎに、彼らのシステム上のミスで誤ってスパムアカウントとして報告されたこと、凍結は他のユーザーからの通報が理由ではないことなどを示す謝罪メールも届いた。

ツイッター社からのごめんねメール。「天災」を前に個人は無力である

 ただ、公式アナウンスを信じられるかは微妙なところだ。米中関係が緊張するなかでの天安門記念日を前に、中国政府や親中国政府系の民間ハッカーがなんらかの攻撃をおこなった可能性は低くない。「サクラ」のようなアカウントを数千個以上準備して、特定のターゲットに向けて通報を連発するような手法ぐらいは、容易に想像が付く。

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 政治的な事情を考慮すれば、少なくとも在外中国人アカウントが集中的に凍結された件についてなら、サイバー攻撃の線は十分にあり得る。王丹や周庭が無事だったのは、国際的に知名度が高い人間があえてターゲットから外されたのかもしれない(ちなみにマイナー活動家である顔伯鈞のアカウントは6月9日正午現在になってもいまだに凍結中だ)。

 中国の政治と無関係な日本人のアカウントが凍結された事情は不明だが、サイバー攻撃とツイッター社のアルゴリズム上のエラーが同時に発生した可能性だってある。なんらかの「巻き込まれ事故」が起きたのだろうか。

天安門事件30周年を迎え、台湾で行われた追悼集会 ©AFLO

クレジットカードや携帯電話がストップされるレベルの打撃

 もちろん、凍結騒動の真相はあくまでも不明である。そもそも私はIT技術の知識があまりないので、不確かなことを言って陰謀論の流布に加担するようなマネは厳に慎むべきでもある。

 ただ、中国について政治的にそこそこ敏感な情報を発信している、凍結被害の当事者だからこそ指摘したいこともある。

 それはSNSの凍結という「攻撃」が、想像以上に強力な破壊力を持つと知ったことだ。加えて、この「攻撃」が、たとえ凍結が解除されたとしてもターゲットのその後の言動にかなり大きな枷(かせ)をはめられることもわかった。

 例えば私は個人事業者であり、ツイッターを告知・宣伝ツールとしても使っている。特に現在は1ヶ月半以内に著書が3冊出ており、また『八九六四』がらみでTV・ラジオ番組や新聞での露出も増えている。また、ライターは人脈が多くてナンボの商売だが、従来ツイッターのダイレクトメッセージだけで連絡を取ってきたような人も意外と多くいる。

 なので、自分にとってツイッターの凍結は、メインのクレジットカードや携帯電話をストップされるのに近いレベルの打撃を受けるのだ。これは、ある程度効果的にツイッターを使って、自分の名前で商売をしている人ならば、等しく負っているリスクでもある。