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連載文春図書館 著者は語る

西洋絵画は謎だらけ。秘められた運命のドラマを中野京子が解き明かす

『中野京子と読み解く 運命の絵』は怖い絵シリーズの新境地

『中野京子と読み解く 運命の絵』(中野京子 著)

 ベストセラー「怖い絵」シリーズや「名画の謎」シリーズなど、西洋画の魅力を背景の知識や画家の思惑などで読み解く著作を次々と発表し、人気を博す中野さん。新シリーズのテーマは、ズバリ“運命”だ。

「『名画の謎』シリーズに続く新シリーズをということで、担当編集者さんといろいろ相談の上で決めました。運命の不思議さを感じない人はいないでしょうし、間口の広いテーマかなと思っています」

 最初に紹介されるのは、ジェロームの『差し下ろされた親指』。ローマ帝国の剣闘士の闘いを描いた名画だ。

「既に決着がつき、敗者に止めを刺すか否か、皇帝が決断を下す瞬間を描いています。実は映画監督のリドリー・スコットはこの絵を見て、『グラディエーター』を撮ることを決めました。後にアカデミー賞作品賞を受賞し大ヒットしますが、そういう意味では見る人の運命をも変えた絵なんです」

なかのきょうこ/北海道生まれ。作家、ドイツ文学者。絵画エッセイや歴史解説書を数多く発表。新聞、雑誌、テレビなどで幅広く活躍する。著書に『怖い絵』シリーズ、『名画と読むイエス・キリストの物語』、『ハプスブルク家 12の物語』ほか多数。

 掲載の主要23の絵画に描かれるのは、ほかにも、命がけの恋、英雄の葛藤、栄華を極めた人々のその後、国の行く末、巨大な自然災害など、多種多様。

「運命の捉え方は国や地域によっても違うと思います。例えば火山があるイタリア人と、地震のない国のドイツ人が描くものは全く違う。また、国土の大半が低い土地で常に水を制する戦いの歴史だったオランダ人にとって、運命とは挑戦するものでしょう」

 欧州の歴史とは、そのまま戦争の歴史でもある。

「日本は自然災害の多い国なので、自然との絡みの上で常に運命を考えざるをえなかった。一方欧州では、国境に対する絶えざる戦いのために運命というものを頻繁に考えたでしょうね」

 古典的なテーマの絵画(アルトドルファー『アレクサンドロスの戦い』)の裏には現実のイスラム世界の脅威があり、英雄ナポレオンのプロパガンダ肖像(ダヴィッド『書斎のナポレオン一世』)には、歴史を決定づけた戦いが示唆されている。

 さらに運命は幾重にも絵画を取り巻き、ドラマは豊かさを増す。1枚の絵で名声を手にした画家もいれば、後に没落した発注者もいる。絵画そのものが数奇な運命を辿ることもある。

「人はみな、人生はままならないものだと感じているはず。それをどう乗り越えるかという時に、芸術が人を救ってくれることはあると思うんです。いろんな運命の在り方、そして人は運命とどう戦ったか、その戦い方を、絵画を通じて知って頂きたいと思います」

画家たちはいかに「運命」を描いたか。運命的瞬間、歴史の転換点、夢や託宣が告げる未来、生死の境、ファム・ファタール(=運命の悪女)……さらには作品自体が画家ばかりか、世界観をも変えた例も。ムンク『叫び』、ルノワール『シャルパンティエ夫人と子どもたち』など17テーマ主要23作品を紹介する。

中野京子と読み解く 運命の絵

中野 京子(著)

文藝春秋
2017年3月10日 発売

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