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築18年、オフィスに不向きなブーメラン形…“一昔前”の香り漂う「電通ビル」の本当の価値とは

2021/02/09
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貸しビルとしては形状・立地に難あり

 そしてこのビルを賃貸用のビルと考えるとなかなか悩ましい。ビルは大林組が建設、デザインパートナーにジャン・ヌーヴェルとジョン・ジャーディという有名デザイナーを起用したこともあって、建物全体が横に切るとブーメラン状になっている。形としては大変美しいのだが、これを賃貸にしようとすると、オフィスの形状は曲がりくねり、デスクやチェアの配置に困ってしまう。オフィスとしての有効率が極めて悪いのだ。

©️iStock.com

 また各階のエレベーターホールからオフィススペースまでが渡り廊下のようになっているために、フロアを分割して貸そうにも分割が極めて難しい形状になっている。つまり貸しビルとしてはなんとも不格好なビルになっているというのが実態だ。

 ビルの立地にも疑問符がつく。新橋駅烏森口改札から徒歩5分というが、仕事などで電通に行く機会の多い私からみれば、地下のコンコースを延々と歩き、電通本社の受付に到着するまで10分近くかかる印象だ。

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新橋駅 ©️iStock.com

 電通本社ビルのあるエリアは東京高速道路の高架と環状2号線(通称マッカーサー道路)に囲まれ、他の施設、エリアとは分断されている。賃貸オフィスの立地としてはアクセスがしづらく、ビルの先は浜離宮庭園など閑散としたエリアである。半島のような立地はオフィスとしては高い価値をつけにくい。

 聞くところによれば、売買価格は3000億円をゆうに超えて交渉が行われているという。そして投資をする際の投資利回り(キャップレート)は3%を切って2%台になっているという。いくら金余りの世の中とはいえ、日本最大の不動産取引になりそうなこの案件、果たして買手に利はあるのだろうか。