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40億円が行方知れず…捜査局に“裏金工作”の全貌を解明させなかった水谷建設の“防御システム”とは

『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #18

2021/04/05

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

note

「兄貴がそう言っているんだったらそうでしょ」

 検事に対して暴力団組長はそう嘯いた。事情を知る業者がこう言葉を足す。

「その親分は功会長のカジノ仲間で、ふだんから兄弟付き合いをしているんです。カネは現実には別のところに流れていると思いますが、親分は地検に呼ばれてもぜったいに口を割らない。『兄貴が言っているだから間違いない』となかば認めて検事に話すだけだったらしい。それで、一枚だけペラペラの調書を取られ、そこに署名して帰ってきました。もちろん、裏金はヤクザだけでなく、政治家にもわたっているとは思いますけど、親分もそれは知らないし、仮に知ってても言わないでしょうよ」

 この記事で取り上げたように、東京地検の特捜部にとって水谷建設の脱税事件は、単なる事件の入口に過ぎなかった。社名の頭文字をとって捜査関係者に「Mファイル」と名付けられた事件の奥行きは、想像以上に深い。なかでも、東京地検特捜部は東京電力の原発利権に切り込むと見られていた。だが結局、捜査は福島県知事の汚職にとどまる。06年10月23日、東京地検は実弟の経営する「郡山三東スーツ」の土地取引をめぐり、賄賂を受け取ったとして前知事の佐藤栄佐久を逮捕した。しかし当初、1億7000万円相当の収賄と見込んでいた地検の目論見は崩れた。佐藤は08年8月に一審の東京地裁の判決で懲役3年、執行猶予5年と実刑を免れる。おまけに翌09年10月の二審東京高裁の判決では、懲役2年・執行猶予4年と減刑され、検察側はメンツを失う。

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 捜査や公判が難航した背景には、数多くの要因があるに違いない。そのなかで、裏金の行先をごまかす水谷建設の防御システムが大きな壁になったのもまた事実だろう。古典的で単純な手口ではあるが、その壁を突き崩せない。だが、かといって捜査は無駄ではない。

 水谷功はその絶頂期、日本と北朝鮮との国交回復を睨んでたびたび現地入りした。特捜部は北朝鮮におけるゼネコン利権にも着目した。そしてそれらの捜査を通じて検察サイドには、膨大な関係データが蓄積された。それがのちに、西松建設や小沢一郎の政治資金規正法違反事件として花開く。

【前編を読む】“5000万円の小切手を何枚も持ち、一晩で使う金額は2億円”水谷功のカジノ仲間だった「元国会議員」の正体

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