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ベイスターズの2年目スカウト・中川大志が「このチームはいいよ」と胸を張って言える理由

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/09/11
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選手を評価する上で絶対的な“正解”はない

 愛知県豊橋市出身の中川が担当しているのは主に東海地区だ。昨年は担当したヤマハの池谷蒼大(5位)と静岡商の高田琢登(6位)が指名を受け入団している。

 スカウト1年目は、新鮮な環境ではあったが、ほぼ未知の世界ゆえに当然苦労もあった。

「ひとりの選手を1年通じて評価することの難しさを痛感しました。素質はもちろん、性格的に本当にプロになって頑張れるのか、気持ちは強いのか。だからプレーだけではなく、グランドでの振る舞いや練習の姿勢も観察しています」

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 コロナ禍にあって複数人での行動や視察が難しい状況であり、いいとおぼしき選手をピックアップすると、他のスカウトや編成部のスタッフに積極的にクロスチェックをしてもらう。池谷や高田のように自分と同様の評価を受ける選手もいれば、中には評価をされない選手もいる。1位指名で何チームも競合する特Aの選手ならば別だが、中川が強く感じたのは、選手を評価する上で絶対的な“正解”はない、ということだ。

「だからそこは割り切って考えています。僕が重視するのは他の人が持っていない個性や魅力。短所はその後の指導で直せる可能性があるので、長所を見てあげることが大切です。誰にもない武器や個性は、プロとして必要不可欠。例えば池谷と高田は一目惚れじゃないですけど、最初見たときいいピッチャーだなって感じたのが本音です。もちろん良くない部分もあったし迷うこともありましたが、結局、僕の評価は最後まで変わらなかったので、担当として押させてもらいました」

 指名が決まったときは「嬉しさ半分、心配半分といった感じでしたね」と中川は笑顔で語っている。今季、池谷はルーキーとして開幕一軍の切符を手に入れたが、その後はファームでプロとしての土台を作っている最中だ。高田は8月に左肩のクリーニング手術をしたが、6月のファームデビュー戦では内角を突く強気のピッチングにより1回無失点で終え、高卒とは思えない堂々としたピッチングを披露している。ともに抜群のポテンシャル。いずれDeNAの未来を担う重要なサウスポーに成長してくれるだろう。

 スカウト1年目はピッチャーのみの担当指名だったが、いずれは中川が推挙するバッターも見てみたいものだ。そう話を振ると、中川はまるで自分のことのように語るのだ。

「ピッチャーは素直に見られるのですが、やっぱり野手出身なのでバッターを見る目は厳しくなってしまうんです。いい選手だけど、この打ち方だともしかしたらプロで苦しむんじゃないかとかいろいろ思ったりしてしまうので、そこはきちんと見極めていきたいですね」

 自分が現役時代に苦しんだからこそ分かることもある。言うまでもなくドラフト指名は機械やAIが選別するものではなく、人間が観察し、経験やデータ、英知を集結させ敢行するものだ。脚を使ったスカウティングなど、その内実は泥臭い。だからこそ球団の個性や色が出て面白いのである。

 中川には夢がある。

「スカウトはチームを強くする重要な仕事ですし、しっかり補強し戦力を整え、ベイスターズを常勝軍団と言われるようにしたいですね。また自分が担当した選手が、エースやスタメン、延いては日本を代表する選手になってくれたら……」

 スカウトの真の評価は、担当した選手が大成するかいなか。まだ2年目のアマチュアスカウトの中川は、大きな夢を描き、今日も現場へと足を運ぶ。運命の日まで、あと1ヶ月――。

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