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ベイスターズの2年目スカウト・中川大志が「このチームはいいよ」と胸を張って言える理由

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/09/11

 2021年10月11日――あと1ヶ月で今年度のドラフト会議を迎える。この季節になるとネットやSNS上ではプロ野球ファンたちが熱い議論をかわし、来たるドラフト会議に対し期待を膨らます。

 当然指名を控えた球団も絞り込みの時期に入っており、ドラフトに向けた戦略会議が頻繁に行われている。

「最初は本当に圧倒されることが多かったですね。スカウト同士が激しく意見をぶつける想いのつまった会議で、とにかく熱いんですよ。これは本当にいいドラフトが迎えられると感じましたし、自分も意見をはっきり言えるようにキャリアを積んでいきたいと心から思いました」

 こう感嘆し語ってくれたのは、横浜DeNAベイスターズでアマチュアスカウトを務める中川大志である。現役時代は楽天ゴールデンイーグルスとDeNAでプレーし、2019年シーズンに引退すると翌年からアマチュアスカウトに転身したキャリア2年目である。

現役当時の中川大志

「最後にここで過ごせて良かったなって」

 中川は2008年のドラフト会議で楽天から2位指名を受け、愛知県の桜丘高から入団。身長186cmの大型野手として期待され、イースタンリーグでは豪快なバッティングでタイトルを幾度となく獲得した。だがケガや不振で苦しみ一軍では本領を発揮することができず2017年に戦力外通告を受けている。

 すると右の代打を欲していたDeNAが白羽の矢を立てた。2018年シーズンは47試合に出場し、交流戦ではDHに抜擢。打率.228ながら長打率は.404とパンチ力を見せつけた。気さくな性格に加え、常に必死なプレーで真摯に野球に取り組む姿勢は同僚たちから信頼を得て、チーム内で一目置かれる存在になった。だが2019年シーズンは一軍出場わずか3試合にとどまり、10月に再び戦力外を告げられてしまう。

 当時、ファームで打率3割近い数字を残していたが、現役に未練はなかったのだろうか。

「いや、それはなかったですね」

 きっぱりと中川は言った。

「楽天から戦力外を受け、ベイスターズにチャンスをもらったとき、ここでダメだったら引退しようと入団する前から決めていたんです」

 現役時代の最後を過ごした、わずかばかりの日々ではあったが、DeNAの2年間は中川にとってどんな時間だっただろうか。

「プロ野球選手って、喜びよりも苦しい時間が多いものなんです。時には野球を嫌いになりそうなこともあったんですけど、ベイスターズに来て、チームの雰囲気も良く、楽しく野球ができたんですよ。チームメイトの意識も高く、勉強する部分も多かった。最後にここで過ごせて良かったなって」

 だから今、ひとりのアマチュアスカウトとして、プロ候補選手たちに「このチームはいいよ」って胸を張って言えるのだという。

「施設も含めベイスターズは素晴らしい球団ですから、自信を持って『ぜひ来てください』と」

 球団からアマチュアスカウトの話をもらったのは戦力外を告げられたときだ。現役続行を希望しないのであれば、球団職員としてスカウトにならないかと声をかけられた。わずか2年間しかチームに携わっていない選手としては異例ともいえるオファーであるが、これも中川の普段の姿勢や人柄が導いたことなのだろう。

 家族と相談をするため、すぐに返事はせず一旦持ち帰ったが、ほぼ腹は決まっていた。

「アマチュアスカウトは以前から興味を持っていた仕事でやってみたいという気持ちがありました。また野球界、ベイスターズの力になれるんだという思いも強かったですね」

 ふと中川は学生時代に思いを馳せる。

「高校のとき、スカウトさんが足繁く通ってくれて、よく見てくれていたのを思い出します。僕のどこを評価してくれたのか分からないのですが、プロの世界に進ませてくれた方々なので感謝しかないんです」

 こうして中川は、プロ候補選手たちを評価し、その後の人生を左右するアマチュアスカウトになった。