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「少年サンデー生え抜きで1作目からメガヒットは『今日から俺は!!』以来30年ぶり」 老舗漫画誌を改革した編集長が“就任時から17倍”のお金をかけたところ

市原武法さんインタビュー#2

2021/11/30
note

中学2年生の男女が面白く読めること

――市原さん就任後の新連載では、『あおざくら 防衛大学校物語』(二階堂ヒカル/2016年22・23号から連載)、『魔王城でおやすみ』(熊之股鍵次/2016年24号から連載)、『古見さんは、コミュ症です。』(オダトモヒト/2016年25号から連載)などのヒット作が生まれました。

市原 「少年誌にはこういう漫画を載せるべき」みたいな考え方は、僕は嫌いなんです。ジャンルの制約はなし、女子が主人公でもいい。僕が唯一号令として発したのは「中学2年生の男女が面白く読めれば少年漫画である」というただひとつ。ちなみに中学2年生の男女“しか”読めない、じゃないですよ。

――13歳や15歳ではなく、14歳というのは理由があるんですか?

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市原 個人的な経験では、14歳の頃がいちばん多感だったように思います。いろいろなことに鋭敏に反応していた時期で、それ以前は子供。14歳が思春期の入口で、そこから少年になったんだと思う。14歳の男女が楽しく読める作品を、という方針は「ゲッサン」創刊時も同じでした。

 

――読者は完成原稿を読むのでその作品が面白いかどうか判断できますが、ネームや新人作家の持ち込みは、どこで判断するのでしょうか?

市原 人間が描けているかどうかだと思います。結局は、人間を描くわけですから。表情、身振り手振りを含めたアクション、目つき、行動、それからセリフ。できる人は最初から本能的にできる。

「これからはデジタルの時代だ」とか「紙の雑誌の危機だ」とか言われても、それは売り方の話であって、僕ら創作現場は0次産業。あくまで「人間を描く」ことが大事。かつて携帯小説が流行ったときに「これからは小説のあり方が変わる」なんて言われましたけど、変わるわけがない。だって読み手が人間である以上、そこは変わりませんよ。人間が進化したら別でしょうけどね。

――「人間を描く」ことを、もう少し具体的にお教えください。

市原 作家が各キャラクターの人格を理解していないと、3人、4人とキャラクターを動かすときに、会話が定型文になる人が多いんですよね。「やったぜ」とか「うおおお」とか、誰が喋っても同じようなセリフを書いてしまう。それでは人間を描けているとはいえない。『よふかしのうた』のコトヤマ先生なんかは、本当にセリフがすごいですよ。あたかも人間が本当に会話しているようなセリフを書きます。

――なるほど。