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「男性のほうが酷いと描いた話ではないんです」徳川の女将軍が美男三千人を囲って…よしながふみが男女逆転『大奥』で大切にした“視点”

よしながふみ×宇垣美里 特別対談#1

2022/01/14
note

――宇垣さんの新刊『今日もマンガを読んでいる』のあとがきでは、よしながさんの『愛すべき娘たち』(白泉社)にも触れていらっしゃいましたね。様々な女性の生き方を描く連作短編です。

宇垣 はい、大好きです!

よしなが ありがとうございます。おいくつの時に読まれたんですか?

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宇垣 高校生ぐらいの時ですね。「母というものは要するに1人の不完全な女の事なんだ」というセリフ通り、母親に多くを求めすぎていたな、と思えて救われました。

「物語から生きる力をもらっている」

よしなが まだ高校生の時に読んでいただけたのは嬉しいです。単行本にする時は不安だったんです。これまで描いてきたもののように男子や食べ物がたくさん出てくるわけでもないので、何をフックに読んでくださるのだろう? と。でも何年も経ってからこうして「好きです」と言ってくださる方に会うようになって、じわじわっと描いてよかったと思えるようになりました。

よしながふみ『愛すべき娘たち』(白泉社)

宇垣 何かに苦しんでいる人にとって、「自分1人じゃなかった」と思える作品だと思います。もう本当に……ありがとうございました!

よしなが そんなふうに言っていただいて、こちらこそありがとうございます。でも漫画を読むと「ありがとうございました」という気持ちになることがありますよね。私も描かれた先生に会うと「お世話になっております」と言いたくなります(笑)。

――宇垣さんはあとがきで、物語に触れることについて「フィクションだとしても、その中で私たちが得た勇気も希望も憧れも、みんな虚構なんかじゃない現実のもの」と書いていらっしゃいましたね。

宇垣 私は、物語の中で受け止めた気持ちや揺らぎを積み重ねていかないと生きていけないので。

よしなが 私も現実から逃避するのではなく、現実に立ち向かうために、人は物語を読んでいるのじゃないかなとずっと思っていて。物語から生きる力をもらっている。生活必需品ですよね。娯楽じゃない。漫画を買うお金は生命維持費なので、節約という概念もない。新刊が出ていたら、なくなったお米を買うのと一緒で「しょうがないのよ」と思いながら買っています(笑)。

写真=深野未季/文藝春秋

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よしながふみ 1971年、東京都生まれ。『大奥』で第10回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、第13回手塚治虫文化賞マンガ大賞などを受賞。他の作品に『愛すべき娘たち』『きのう何食べた?』など。

 

うがきみさと 1991年、兵庫県生まれ。フリーアナウンサーとしてテレビ、ラジオ、CM出演のほか、女優業や執筆活動も行う。小誌連載をまとめたマンガコラム+エッセイ集『今日もマンガを読んでいる』が好評発売中。

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宇垣 美里

文藝春秋

2021年12月14日 発売

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2005年9月29日 発売

愛すべき娘たち (ジェッツコミックス)

よしながふみ

白泉社

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