主人公のももこは出産・育児を機にマンガ家になる夢を諦めた専業主婦。ワンオペ育児と家事に追われる日々に疲れ果て、夫に協力を求めるけれど、「努力が足りない」「ただの甘え」「社会人失格」と心無い言葉を投げかけられる。
『夫の扶養からぬけだしたい』(ゆむい著、KADOKAWA)は、現代日本の「専業主婦」をとりまく問題をシンプルな描線でするどく切り取ったコミックエッセイ。子供がいる女性の就職を支援するウェブサイト「ママの求人」で連載され、SNSで大きな話題に。その反響を受けて2019年に書籍化された。
「連載当時、夫・つとむの『そんなに家事ができないって言うなら 僕と同等に稼いでみなよ‼』というセリフがTwitterで物議をかもしていました。『こんな酷いことを言うなんて信じられない』『まさに私の夫/父がこんな人でした』と、ももこに同情する声が多数派でしたが、『そもそも専業主婦にならなければいいのに』という辛らつな意見もありました」(担当編集者の間有希さん)
物語はももこ一人の視点で描かれるのではなく、折々に夫の視点も織り交ぜられ、妻につらく当たってしまう心情が明かされる。
話せば話すほど深まる夫婦間の溝。稼いだ額で上下関係を作ろうとする夫から、ももこの心は離れてしまう。しかし離婚しようにもお金もなければ、行く当てもない。アパートを借りることすらままならず、求職すれど「子持ち」という理由で断られ、子供を保育園に入れることさえできない。もがけばもがくほど、「私の社会的信用は 夫の上に成り立っている」と実感する。
そんな八方ふさがりの状況を破るため、ももこはイラスト業を再開。経済的、社会的に自立することで自尊心を回復しようと試みる。最低限「夫の扶養」を抜けられる「年収201万円以上」を目標として、自立への一歩を踏み出した。
「よく“150万円の壁”と言いますが、夫の年収やご自身の働き方などによって“扶養を抜ける”条件は変わってきます。単行本にはゆむいさんの発案で、ファイナンシャルプランナー監修のもとで作成した『扶養制度のまめ知識』というコラムも収録しました」(同前)
努力の甲斐あって、ももこはついに年収201万円を達成。物語は最後の最後で意外な展開を見せる。ももこが下した驚きの“決断”とは――。
「物語の受け取り方は人それぞれ。読者が自分自身の体験にひきつけて読める身近なテーマなので、物議をかもしやすい作品なのかもしれません。ぜひ、ももこの決断を見届けていただきたいです」(同前)
2019年2月発売。初版7000部。現在9刷18万部(電子含む)