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「こんなクソみたいな作戦で何が出来るんだよ」みたいな反応も… 元自衛官の作家・砂川文次が“ロシア軍と自衛隊の地上戦”を描いたワケ

砂川文次さんインタビュー#2

2022/04/15

source : 文春文庫

genre : エンタメ, 読書

note

強い弱いは相対的でしかない

――少し前まで、戦争も国家対非国家の非対称戦の議論が盛んでしたし、創作でもそうでしたね。

砂川 人やモノ、サービスの流れがこれからはボーダーレス、シームレスになっていくと思ってたら、コロナであっという間に国境は閉鎖された。サイバー攻撃とかも非国家主体も重要なプレイヤーですが、結局サーバーは国家で管理されているし、リソースを提供できる集団となったら国以外ないわけですよね。国家は主要なプレイヤーからは脱落してない。

 LGBTQとか気候変動とか、解決しなきゃいけない新しい問題もある訳ですが、それと別にもうすでに解決、あるいは克服したって勝手に勘違いしていた過去の問題。そういった今まで無視していたことが、今回の戦争で一気に噴出した、って気がします。

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©文藝春秋/杉山秀樹

――『小隊』と現実がちょっと違ったことについてです。先程お話し頂いたように、作中のロシア軍の攻撃はセオリーに沿ったものでした。ところが、今回の戦争では、ロシア軍の苦戦や不手際が伝えられていて、ロシア軍を知る専門家は首を傾げています。こういった創作を含めた戦争前のイメージと、実際の乖離について、どう思われますか?

砂川 強い弱いって、相対的でしかないんです。すごい単純ですけど、作中で言えば、あのロシア軍の兵力と自衛隊で戦ったら、多分それはロシア軍が強く見えるんですよね。今回の事例で見ると、複数正面からあの兵力で侵攻ってなると、恐らく大勢では弱く見えるのは仕方のないことだと思います。戦術的に言えば、衝撃力を維持するには、ある程度の兵力集中は必要なので。

芥川賞スピーチで「怒り」と見せた真意とは… ©文藝春秋/杉山秀樹

芥川賞スピーチでの「怒り」とは

――ちょうど芥川賞の贈呈式の日が、ロシア軍がウクライナ侵攻を開始した日で、受賞スピーチの中で「怒り」を表明されていましたね。あの怒りは今回の戦争に対するものもあったんでしょうか。

砂川 戦争それ自体に対して怒りみたいなものはありますけど、あの時は個人的な心境もあったと思います。悪い言い方をすると、自己投影していた部分もあるかもしれません。