突然のロシア軍侵攻とそれに続く膠着状態。だが、膠着状態を破り、防御陣地に接近するロシア軍。21世紀の今、現代兵器による凄惨な戦闘が幕を開けようとしている。これはウクライナの話ではない。舞台は日本で北海道、ロシア軍を迎え撃つのは自衛隊だ。
砂川文次『小隊』(文藝春秋)は、自衛隊とロシア軍の凄惨な地上戦を一小隊長の視点から描いた現代日本に珍しい硬派の戦争文学として話題となり、第164回芥川賞の候補作となった。その砂川氏は先日、『ブラックボックス』(講談社)で遂に第166回芥川賞を受賞し、元自衛官の芥川賞作家として注目を集めている。
21世紀の今に生起した国家同士の戦争。それもロシア軍による侵攻を描いた『小隊』の他、新型感染症への恐怖によるパニックを描いた『臆病な都市』(講談社)など、砂川氏は未来を予見するかのような作品を立て続けに発表していることも話題を呼んでいる。
その『小隊』が5月に文庫化されるのを機に、自衛隊での経験がどう作品に生かされたのか、なぜ未来を予見するような内容になったのか、今の戦争に何を思うのか――。砂川氏に話をうかがった。(全2回の1回目。後編を読む)
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芥川賞作家は元対戦車ヘリパイロット
――『小隊』は普通科(歩兵)の話ですが、陸上自衛隊にいらした時の職種は航空科とお聞きしました。ヘリコプターに乗られていたんですか?
砂川 そうです。1S(ワンエス)です。AH-1S(対戦車ヘリコプター)です。
――おお、格好良い。
砂川 いえいえ。石器時代のヘリコプターですよ(笑)。
――あくまで私の主観なんですが、航空自衛隊もそうですけど、パイロットになる方はパイロットを目指して入隊した方が多いように思います。砂川さんもパイロットを目指されていたんですか?
砂川 いや、陸自の場合は志望してもなれる感じじゃなかったです。入隊して適性検査一発で決まるので、私は幸いにも適性があったんですけど、幹部候補生は300人前後くらいで、そのうち操縦士になれるのが20人くらい。教官から言われたのは、「お前ら何書いても、基本普通科だからな」って(笑)。