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――『小隊』ですが、21世紀の日本で塹壕小説を読めるとは驚きました。あの塹壕戦のディテールはどういう風に書かれたのですか?

砂川 教範とかは辞める時に返したんですけど、私費で購入していた部内誌にあるCGS(指揮幕僚課程)受験向けの戦術講座を引っ張りだしてきて、師団の防御計画とか演習対抗部隊の敵側の慣用戦法とかをベースに、「実際に戦闘になったらどうなるか?」を一視点に絞って書いてみました。

自衛隊の塹壕例(写真は特科〈砲兵〉部隊用)(筆者撮影)

なぜ「敵」がロシアだったのか?

――その「敵」についてですが、なぜロシアにされたのですか? 最近の創作での敵役は中国の方がメジャーですよね。

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砂川 それは書いている時も編集さんから「なんで?」と言われたんですけど、北海道にいたというのもあるんですが、インターネットで得られる情報の中でも精度の高いシンクタンクの日本国際問題研究所(国問研)で中国やロシアの記事をみると、中国は観測気球はあげるけど対外行動に移すのは意外と少ないと思ったんです。中国がアジアで行動するのは、むしろ不確実性で言うとロシアよりかなり低いんじゃないかというのが私の考えです。

 逆にロシアの方が対外的には強硬な行動を取っていて、冷戦後も頻繁にあるという印象です。非対称戦ではなく国家対国家の対称的な行動という点で、中国よりロシアの方が現実性は高いと個人的に感じています。

©文藝春秋/杉山秀樹

国問研のロシアに関する年次報告書を読み込んでいた

 ロシアのウクライナ侵攻も私の予見ではなく、日本のシンクタンクで分析が蓄積されていたから、驚くほどのことでもないと思います。実際にクリミアやジョージア、シリアもありましたし、プーチンが最初に大統領になってからここ20年、ロシアは干渉的な行動をする体制なのかなと。

――『小隊』では、自衛隊もロシア軍も軍事的なものとは別に、政治的な事情で足を取られているような描写がありました。今回の戦争でもロシア軍の苦戦にはそういった政治側の影響があるのでは、という推測が出ていますね。

砂川 そうですね。『小隊』を書く前、国問研のロシアに関する年次報告書を読み込んでいたんですが、ロシアの東方政策がずっと気になっていました。現地の反発や極右政党の跋扈もあったようで、それをプーチン大統領はあまり快く思ってなかったようです。ロシアとしては、中国や日本を活用して東方開発を行う目論見で、極東ロシアに住んでいる人たちも結構賛同していたようなんですが、「もし現地が反発してたら?」みたいに、そういった地方と中央の対立を、逆転させることで書いてみましたね。