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銃弾、人骨、縄文土器、江戸時代の貨幣…“落としモノ”が明かす“日本一の砂場”鳥取砂丘のヒミツとは?

2023/03/01
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これほど多くのモノが保存される秘密は“砂”にあった

「おそらくですが、完全に砂に埋もれると、一定の湿度と、新しい酸素に触れない状態になるので、腐食が進みにくいんじゃないかなと考えています」

 他にも石川さんが見たこともないような古いビールの空き缶が出てきたが、70代の父親に尋ねると「若い時に飲んだことがある」と言われた。

石川瑛代さんの父親は飲んだことがあるという缶ビール。ファンタ缶と同じ頃の製造という同じ頃の製造という。昔も今も缶ビールを飲み終わったら潰す人が多い?(鳥取砂丘ビジターセンター)©葉上太郎

「このメーカーがオレンジジュースを作っていたのか」と驚かされるような空き缶もあった。

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「ブルボンがオレンジジュースなんて出していたんですね。バヤリースは『オレンヂ』」と石川瑛代さん(鳥取砂丘ビジターセンター) ©葉上太郎

 空き瓶も多く見つかり、「1965年製」と印字されたコーラの瓶が出てきた。

 製造を止めて久しい地元の酒造会社が出していた「ライオンジュース」の瓶には、ビジターセンターの職員も「どんな飲み物だったのだろう」と首をひねった。

「砂丘で宴会でもしたのでしょうか、おちょこも見つかります。砂丘で歌ったのでしょうね、ギターのピックも出てきました。ただ、空き缶や空き瓶はゴミです。ゴミは砂丘に捨てないでほしいなと思います」

今は製造していない酒造会社の「ライオンジュース」(右)の空き瓶など(鳥取砂丘ビジターセンター) ©葉上太郎

 ゴミのポイ捨ては、鳥取県が定めた「日本一の鳥取砂丘を守り育てる条例」で禁止されていて、他にも砂上での落書き、犬のフンの投棄、ゴルフの打ち放し、花火の発射、砂丘海浜での遊泳などが禁じられている。そもそも鳥取砂丘は天然記念物に指定されていて、砂はもとより、虫や植物も持ち帰ってはならない。

 これらの定めがきちんと守られれば、将来の拾い物は少なくなるはずだ。

日本の貨幣だけではなく、外国の通貨なども多く見つかり…

 それでも拾われ続けるだろう物がある。貨幣だ。現在も500円玉、100円玉、50円玉、5円玉、1円玉、外国の通貨などが数多く見つかっている。

「むき出しの紙幣まで見つかります。免許証、財布、『あら、ウサギがいる』と思ったらフェイクファーの帽子だったことも。携帯電話を落とす人もよくいます。砂丘に来ると、人は走りたがるので、ポケットなどに入れていた物が落ちてしまうのだと思います」

 鳥取砂丘が開放感あふれた空間である限り、人は思わず走ってみたくなるのだろう。そして物を落とす。つまり、鳥取砂丘が鳥取砂丘である限り、落とし物は続く。

 砂丘はただの砂場ではなく、非常に人間らしい場所なのではなかろうか。

 温暖化と寒冷化が繰り返されるたびに姿を変え、人間と自然がせめぎ合う最先端でもあった。拾い物はそうした歴史を私達に語りかける。

「鳥取砂丘は知れば知るほど面白くなります。ぜひ、虫を探す目で見に来てください」と石川さんは誘う。鳥取砂丘ビジターセンターには、石川さんが集めた拾い物のコーナーもある。

石川瑛代さんが担当する拾い物の展示コーナー(鳥取砂丘ビジターセンター) ©葉上太郎
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