鳥取県鳥取市の海岸に広がる鳥取砂丘。
ここには、拾い物のエキスパートがいる。日々、砂丘を歩き回り、落ちている物を目ざとく見つけて拾うのだ。「見つける力」は小さい頃から養ってきたので、かなり鋭敏だ。
なぜ拾うのか。
それには深い理由がある。結論を先に言うと、拾い物の数々から鳥取砂丘の秘密が解き明かされるのである。
まずは、どのような人か紹介しよう。
石川瑛代(あきよ)さん(34)、「鳥取砂丘ビジターセンター」に勤務するガイドだ。同センターでは「砂丘の専門家」と一緒に巡るガイドツアーを行っており、担当者の1人である。
石川さんは鳥取県でも境港市で育った。
漫画『ゲゲゲの鬼太郎』で有名な故水木しげるさんと同じだが、小さい頃から興味を持ったのは妖怪ではなく、生き物だった。
「花も好き、虫も好き、鳥も好き、爬(は)虫類も好きなので、ヘビも平気。動物も大好きだから、動物園にはいっぱい連れて行ってもらいました」
境港市から米子市にかけて、弓のような弧が約20kmも続く弓ヶ浜には、校区外であったが友達何人かと自転車で出掛けては植物を見つけたり、虫を追いかけたりした。
「将来は生き物や自然にかかわる仕事をしたい」と考えた石川さんは、「動物園・動物飼育」の専攻がある専門学校へ進学。在学中にインターンで訪れた酪農家へ就職した。その後、ビジターセンターの前身のジオパークセンターに入り、「見つけて拾う才能」を一気に開花させる。
鳥取砂丘は“ただの日本一の砂場”ではなかった
ただ、最初から拾い物をして歩こうと思っていたわけではなかった。
鳥取砂丘は「日本一の砂場」という言い方が広まったせいもあり、「見渡す限り砂があるだけの場所」と誤解している人もいるのではなかろうか。
実は石川さんもガイドになる前はそうだった。
鳥取砂丘には三つの「砂丘列」がある。そのうち第2列は「馬の背」と呼ばれていて、多くの観光客が目指すのはここだ。ビジターセンターの横から木製の階段を上がると、広大な砂地が広がる。そこから馬の背までは直線距離で約400m。馬の背の頂上は標高約47mもあり、日本海の眺めは絶景だ。しかし、最大傾斜が32度もあるのに加え、行き帰りはひたすら砂の上を歩かなければならないので、「砂ばっかりのところを歩いて疲れただけだった」という感想を持つ人もいる。