これほど多くのモノが保存される秘密は“砂”にあった
「おそらくですが、完全に砂に埋もれると、一定の湿度と、新しい酸素に触れない状態になるので、腐食が進みにくいんじゃないかなと考えています」
他にも石川さんが見たこともないような古いビールの空き缶が出てきたが、70代の父親に尋ねると「若い時に飲んだことがある」と言われた。
「このメーカーがオレンジジュースを作っていたのか」と驚かされるような空き缶もあった。
空き瓶も多く見つかり、「1965年製」と印字されたコーラの瓶が出てきた。
製造を止めて久しい地元の酒造会社が出していた「ライオンジュース」の瓶には、ビジターセンターの職員も「どんな飲み物だったのだろう」と首をひねった。
「砂丘で宴会でもしたのでしょうか、おちょこも見つかります。砂丘で歌ったのでしょうね、ギターのピックも出てきました。ただ、空き缶や空き瓶はゴミです。ゴミは砂丘に捨てないでほしいなと思います」
ゴミのポイ捨ては、鳥取県が定めた「日本一の鳥取砂丘を守り育てる条例」で禁止されていて、他にも砂上での落書き、犬のフンの投棄、ゴルフの打ち放し、花火の発射、砂丘海浜での遊泳などが禁じられている。そもそも鳥取砂丘は天然記念物に指定されていて、砂はもとより、虫や植物も持ち帰ってはならない。
これらの定めがきちんと守られれば、将来の拾い物は少なくなるはずだ。
日本の貨幣だけではなく、外国の通貨なども多く見つかり…
それでも拾われ続けるだろう物がある。貨幣だ。現在も500円玉、100円玉、50円玉、5円玉、1円玉、外国の通貨などが数多く見つかっている。
「むき出しの紙幣まで見つかります。免許証、財布、『あら、ウサギがいる』と思ったらフェイクファーの帽子だったことも。携帯電話を落とす人もよくいます。砂丘に来ると、人は走りたがるので、ポケットなどに入れていた物が落ちてしまうのだと思います」
鳥取砂丘が開放感あふれた空間である限り、人は思わず走ってみたくなるのだろう。そして物を落とす。つまり、鳥取砂丘が鳥取砂丘である限り、落とし物は続く。
砂丘はただの砂場ではなく、非常に人間らしい場所なのではなかろうか。
温暖化と寒冷化が繰り返されるたびに姿を変え、人間と自然がせめぎ合う最先端でもあった。拾い物はそうした歴史を私達に語りかける。
「鳥取砂丘は知れば知るほど面白くなります。ぜひ、虫を探す目で見に来てください」と石川さんは誘う。鳥取砂丘ビジターセンターには、石川さんが集めた拾い物のコーナーもある。