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何食わぬ顔のおじさん 凍りついたように動けず口もきけない私

 どれぐらいの時間がたったのでしょうか。

「ただいま一」

 お風呂から上がった母が、タオルで髪を拭きながらリビングに戻り、私の両脚は魔の触手からスッと解放されました。

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 何も知らない母は、「お湯がさめんうちに、あんたも入り」とおじさんに声をかけ、おじさんも「ああ、そうしよか」と返事して、笑っていました。

 いつも通り、何事もなかったように。

 何食わぬ顔で。

 私は凍りついたように、こたつから動くことができず、口もきけない状態でした。

 凶暴な力に両足首を押さえつけられている感覚が、なぜかジンジンと続いています。

 この恐怖。

 この気持ち悪さ。

 この嫌悪感。

 息が、息が苦しい。

 ショートパンツの裾が、下着ごとグシャグシャに乱れたままなのを知らないのは、ママだけや。 

写真はイメージです ©iStock.com

 私をこんなんしたんは、ママの目の前にいる、おじさんやで。

 なあママ、気付いて。気付いてよ。

 今、すごく怖いよ。

 動けないよ。

『10歳で私は穢された』(双葉社)

 お父さん、お兄ちゃん。

 戻ってきてよ!!

 懸命に心で叫んだけれど、母に届くことは、ありませんでした。(#2に続く)