卓球サークルで母が出会ったおじさん
母とおじさんが出会ったのは、父と別れてからまだ日も浅い、2009年の夏頃のこと。子育てと仕事の合間を縫って、少しでも気晴らしになるのならと入会した、地元の卓球サークルです。
おじさんは、母よりひと回り近く年上の50代半ばで、白髪が似合うスラッと背の高い男性でした。
一見、女性にはモテそうでしたが、どうやらずっと独身のようで、親や兄弟など、家族らしい家族の話もまったくなし。
地下鉄谷町線沿線の、青い壁の古いマンションにずっとひとりで住んでいて、どんな仕事をしているのか、よくわかりませんでした。
兄の家出で母は鬱状態に
母とおじさんは一緒のチームになったり、練習後にカフェでお茶をしたりするうちに、急速に仲を深めていったようです。
同じ趣味で意気投合したおじさんとの恋愛は、離婚で傷ついた母にとって、心のよりどころとなっていったんでしょう。
次第に兄や私も交えて人で食事をする機会も増えていき、翌2010年の初秋のことでしょうか。
「実はうちら、付き合うてんねん」
と、母に切り出されて。
おじさんと仲良くなってから母の表情が生き生きしていたのに気付いていた私は、ふたりの間柄をなんとなくは察していたし、それほどの抵抗はありませんでした。
ママの笑顔が増えるんやったら、それもええんちゃう?って。
でも、兄は違ったんやと思います。
「恋人の子供からもお墨付きを得た」とばかりに、おじさんは遠慮なく我が家に出入りするようになりました。
母への強烈な憎しみを叩きつけた走り書きを残して兄が家出したのは、それから間もなくのことです。
「死にたい」と涙に暮れる母は、それでも每日、仕事を休むことはありませんでした。
生活のため、私を育て上げるため、無理に無理を重ねて働き続け、毎晩のように兄の名前を呼びながら泣き崩れていました。
経済的にも時間的にも余裕がなくて、精神科を受診することはできなかったものの、当時の母は鬱に近かったはずです。