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「核兵器の使用はプーチン次第」防衛研究所・高橋杉雄が考える、ロシア・ウクライナ戦争で「核兵器」が使用されるタイミングとは

『ウクライナ戦争は終わらないのか』

2023/07/25

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, 国際, 読書

note

 しかし筆者は、この戦争について言えば、爆発威力から使用の可能性の大小を推測することは適当ではないと考えている。理由は、爆発威力が大きかろうと小さかろうと、核兵器は核兵器であり、威力が小さければ「使いやすい」というような単純なものではないからである。

 むしろ爆発威力は、どのような目的で使用されるかによって決まるだろう。そこで、具体的に核兵器の使用目的を考えるとすれば、相手の軍事力を破壊する軍事的効果のために利用されるか、相手の抗戦意思の破壊を期待する政治的効果のために使用されるかのいずれかであろう。前者の場合にターゲットになるのは前線の戦闘部隊であろうし、後者の場合には都市が狙われる可能性が高い。

 ここでポイントになるのは、後者の政治的効果を狙った核使用の場合に重要なのは心理的インパクトであるから、「核兵器」でさえあれば、威力にかかわらず効果が期待できることである。すなわち、都市攻撃に使うとすれば核兵器の威力は小さくても十分であるといえる。

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 一方で、戦場で前線の戦闘部隊に対して使うとすれば、物理的な破壊力の大きさが必要になるため、核兵器の威力が大きくなければならなくなる。つまり、逆説的だが、政治的効果を重視した都市攻撃に対しては戦術核が使われる可能性が高く、軍事的効果を重視した戦場での核使用においては戦略核が使われる可能性が高くなると考えられるのである。

プーチンが核兵器の使用を考える状況とは

 以上の前提で、プーチン大統領が核兵器の使用を考えるとすれば、まず核使用による利益が、それに伴うコストを上回ると認識することを前提として、大まかに言えば以下の二つの状況においてであろう。一つは、「核兵器の使用によって決定的な勝利を得ることができる」ときであり、もう一つは、「核兵器の使用によって決定的な敗北を回避する」ときである。

 しかしながら、開戦直後ならまだしも、全体の戦局が膠着している現在、前者のシナリオはなかなか考えられない。前線ないし都市で核兵器を使用したとしても、ウクライナが抗戦を諦めるとは考えにくいからである。

 ウクライナ国内においては、既にマリウポリやバフムトは核攻撃を受けたのとほとんど変わらないような破壊を受けており、新たに別の都市が同じような破壊を受けたとしてそれでウクライナ側の抗戦意思が砕けるとは考えにくい。また、仮に核兵器の使用によって一時的な優位をつかんだとしても、核使用が米国の介入を招いた場合には、せっかくの優位を失い、状況はむしろ核使用の前よりも悪化してしまう可能性もある。