2023年のWBC、予選B組東京プールで日本人の心をつかんだのは、まさかのチェコ代表だった。あの試合から1週間が過ぎたのに、Twitterではまだ「チェコの選手」がトレンドに入ってくる。

 私はかねてからチェコ人を知っていた。彼らの国民性というと、一般的には、ユーモアのセンスがあり、勤勉で器用、即興に強くどんな環境でもやりくりしていく、といった点があげられる。実際に一緒にいると、何かを押し付けられることが一切なく、彼らはこちらの意思を尊重し、さらに親切にしてくれる。日本人にとっては心地よい不思議な人たちだ。ついにその魅力が日本全国に伝わってしまったか……。

チェコ代表は、屋根付きの球場でプレーするのは今回のWBCが初めてだったという ©文藝春秋

これだけ注目された彼らも、帰国したら「アウトサイダー」

 野球はチェコ共和国ではほとんど知られていない。今回のWBCはチェコで初の野球中継が行われ、累計84万人が視聴したと言われているが、実際に周りのチェコ人に聞いてもいまだにピンときていない人がほとんどだ。「野球? ふーん」「ルールがわからない」「ソフトボールならやったことある」「だってあれはアメリカのスポーツだよね」という返事が関の山。

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 日本戦の直前3月11日、チェコのスポーツサイト「BetArena.cz」はこう書いている。「アウトサイダーたちの夢の旅路はどこまで続くのか」。日本で注目を集めた彼らも、帰国したらアウトサイダーなのだ。

日本戦での1回表、チェコ代表は1点を先制した ©文藝春秋

 チェコでスポーツといえば、とにかくアイスホッケーである。アイスホッケーは国技といえるほどで、「チェコの男の子はホッケースティックを持って生まれてくる」とたとえられる。クリスマスプレゼントはホッケースティック、小学生になると夏休みにアイスホッケーの合宿に行く。

 とりわけ、1998年の長野オリンピックでのアイスホッケー競技は長く語り継がれ、愛される歴史である。チェコ人のレジェンドであるヤロミル・ヤーグル選手が背番号68をつけて活躍、宿敵ロシアに打ち勝って金メダルを獲得した。ナガノを知らないチェコ人はいない。今年はちょうど25年の節目で、WBCの数週間前には「ナガノ」の文字がスポーツ欄にいくつも踊っていた。