大国を次々と撃破してつかんだ本戦出場の切符
とはいえ、野球のニュースも少しずつ登場していた。2022年9月にドイツで行われたWBC予選A組。チェコ代表の様子は「Small country big dreams」というタイトルの短編ドキュメンタリーとなっていて、YouTubeで視聴できる。そこでの彼らの表情は、東京で見せた笑顔とはまるで別人だ。というのも、予選2回戦でチェコはスペイン相手に21-7という大敗北を喫しているのだ。
その後の敗者復活戦トーナメントで、チェコはフランス、ドイツを破り、再びスペインに挑戦した。どの対戦国もあらゆる分野でチェコより大きく、力のあるヨーロッパの国だ。野球の歴史も長く、プロもいる。しかし、チェコは着実に勝ち上がり、最終スペイン戦に3-1で雪辱を果たし、本戦出場の切符をつかんだ。
大国を次々と撃破した野球チェコ代表。小さな国が大国を倒して、世界へ飛び出していく。センセーショナルなニュースはメディアにも取り上げられ、記事には「夢が叶った」というフレーズが何度も登場した。
実は、チェコ代表の叶えた夢はWBC本戦出場だけではなかった。
チェコ語の話せないソガードがチェコ代表になった理由
ひとつは、チェコ代表で唯一のMLB経験者となるエリック・ソガード内野手の「獲得」だ。彼は怪我で予選に参加できておらず、WBC直前合宿の行われた宮崎でようやくチームに合流した。
現在36歳のソガードは、アメリカ生まれ。2010年にMLBデビューしたあと、5つのチームで815試合に出場し、2000打席以上を経験している。彼は「役に立ちたい」と、チェコの市民権を申請し、チェコ代表に参加することとなった。
チェコ語の話せない彼がチェコ代表として野球をする背景には、彼の母親の存在がある。1968年、「プラハの春」と呼ばれる時期のチェコスロバキアに、突然ソ連の戦車が侵攻してきた。ワルシャワ条約機構軍によるチェコスロバキア侵攻である。ソガードの母は当時わずか12歳で、混乱を逃れて両親と共にアメリカへと渡った。望まぬ形でチェコを去った彼女は、一度もチェコの国籍を手離そうとはしなかったという。