防衛省、防衛研究所室長で、ロシア・ウクライナ戦争の解説者としてニュース番組でもおなじみの高橋杉雄さん編著『なぜウクライナ戦争は終わらないのか デジタル時代の総力戦』が刊行された。
2022年4月に火蓋を切ったこの戦争は、なぜ終わらないのか? そして過去の大戦との違いとはいったい? 「新時代の総力戦」について語った、高橋氏のインタビューをお届けします。(全2回の1回目/後編を読む)
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「アメリカにとってロシアはそこまで重要な存在ではない」
高橋杉雄(以下、高橋) 今回のロシア・ウクライナ戦争にいたる流れを、比較的短いタイムフレームで描くとき、ヨーロッパ・ロシアを中心に見ている専門家は、2021年6月のバイデン・プーチン会談から始めがちなように感じます。
つまり、6月にバイデンがプーチンと、9月にはゼレンスキーと会談をしたものの、バイデンはいずれに対してもウクライナ問題への強い姿勢を示さなかった。そのアメリカの外交の甘さが、プーチンに対して「今なら、戦争を始められる」と思わせた可能性があるというものです。
しかし、僕のようにアジア・太平洋を中心に見ていると、その会談よりもずっと前に、アメリカが対ロ政策よりも対中国政策の優先へと舵を大きく切っていたことが重要だと思うわけです。それが本書でも書いた「ロシア戦略が対中戦略の従属変数になった」ということですが、まさにそのアメリカの外交政策の転換点からウクライナ戦争前夜を説き起こして語る必要があると思いました。今の国際政治はロシアだけ見ていても、あるいは中国だけ見ていてもダメで、まさにグローバルに見なければならないわけです。
また一方で、この戦争は、「アメリカがウクライナを代理としてロシアと戦わせている」というようなロシアvs欧米の代理戦争だという見方が、戦争勃発直後から今に至るまでなお根強く支持される論としてあります。
ロシアの存在を大きく見るがゆえの見立てだと思いますが、しかし私がこの代理戦争論を本書で否定したのは、アメリカにとってロシアはそこまで重要な存在ではないということに尽きるんですよね。
アメリカの戦略にとってはとにかく中国がメインで、ロシアは中国に対して切るカードの一つでしかなく、アメリカがわざわざロシアに対して独自の戦略を立てる必要もない。この10年間、実際にアメリカの中ではロシア戦略は重視されてこなかったのです。