「トマホークは切り札にはならない」「『何をいまさら』というのが正直な気持ち」——防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄氏、芥川賞作家で元自衛官の砂川文次氏による対談「徹底討論 防衛費論争の急所」を一部転載します。(「文藝春秋」2023年2月号、司会・新谷学編集長)
◆◆◆
東アジアにおける防衛費は、相対的に大きく低下
新谷 日本の安全保障政策は、歴史的な転換点に立たされています。政府は2022年12月16日、新たな防衛3文書を閣議決定。23年度から5年間の防衛費の総額を、43兆円程度とすることが決定されました。高橋さんはこの流れをどうご覧になっていますか?
高橋 まず大前提として、日本が置かれている状況をご説明する必要があるでしょう。日本の防衛費はこの20年間、ほとんど5兆円から5兆5000億円の間を推移し、横ばい状態が続いてきました。金額が変わらない一方、その重みには変化が生じています。東アジアにおける各国の国防支出のシェアを比較すると、2000年時点では日本が38%、中国が36%で、ほぼ一対一の割合でした。ところが2020年には、日本のシェアは17%まで低下。大規模な軍拡を続けた中国は、シェアを65%まで拡大しています。東アジアにおける日本の防衛費は、相対的に大きく低下しているのです。
新谷 これまで日本の防衛費は対GDP(国内総生産)比で1%程度でしたが、今後は2%への倍増を目指していますね。
高橋 GDP比2%はNATO基準だとよく言われますが、実はアジアにおける平均値も同レベルに達しています。韓国は2%を超えていますし、シンガポールに至っては3%台です。日本よりも比率が低い国は、アジアではインドネシア、パプアニューギニア、モンゴルしかありません。これらを客観的に捉えて、今後の安全保障を考えなければならない、ということに尽きます。
新谷 砂川さんは元自衛官です。
砂川 はい。6年間部隊にいました。最終階級は二尉というところで、第一線部隊の運用などをちょいちょい知っているという程度です。
新谷 防衛費について、現場の立場から感じることはありますか。