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 砂川 そもそも、防衛省が予算不足であることは常々感じていました。部隊は慢性的に人員や装備が不足していた。「なんとかしてくれ」と現場は散々声を上げてきたのに、上は全く動いてくれませんでした。だから、「何をいまさら」というのが、正直な気持ちですね。

砂川文次氏 ©文藝春秋

 高橋 自衛隊の活動量はかなり増えていますからね。航空自衛隊のスクランブル(領空侵犯の恐れがある侵入機に対する緊急発進)は、この20年間で6.6倍になっています。他にも、イージス艦2隻を日本海側に24四時間配置するなど、東アジア情勢の緊迫化に伴い、次々とミッションが追加されてきました。

 そのツケが出たのが、昨年に防衛省が公表した航空自衛隊の「共食い整備」です。航空機が故障しても、部品の在庫が不足しているため、他の機体から部品を外して転用する。そうやって、一部の機体だけを動ける形にするので、全ての機体を活用できていないのです。

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海上自衛隊のイージス艦 ©時事通信社

 砂川 もう辞めた身なので、今は違うと思いたいですが、私が部隊で対戦車ヘリの操縦士をしていた頃は、航空機も人員も常に定数に届いていなかった。飛行はできるが武装は故障している、そういうことが常態化していました。

 高橋 まずはこれを、正常に戻す必要がある。新しい防衛力整備計画では、「2027年までに、弾薬・誘導弾については、必要数量が不足している状況を解消する」「部品不足を解消して、計画整備以外の装備品がすべて可動する体制を確保する」などの記述があったので、期待したいと思います。

“金額論争”に違和感

 砂川 私の感じる違和感は、防衛についての議論が“金額論争”に終始しているのではないか、ということです。最近は「安全保障」という言葉がよく飛び交っていますが、言葉のイメージだけが先行して、現場が置き去りにされているのではないかと感じます。防衛力って本質的には適応的なはずだから、相手のアクションによってこっちの行動が変わるというのは、自然なこと。将棋で相手が速攻の棒銀で攻めてきているのに、こっちは穴熊作るぞっていうのはすごく愚かで。

 現場が「相手の能力がこうです」「自分の能力がこうです」「そのギャップを埋めるためにこういうものが必要です」「だから、いくらください」とかいう話だったら、わかるんですけど、今は“安全保障”というイメージとか看板を、どの政党とか派閥が背負えるかを、防衛費の多寡で争っているようにも見えます。

 高橋 ただ、防衛費の決め方って非常に難しいんですよ。予算を決めるアプローチとしては、(1)必要なぶんを積み上げていく、(2)最初に大きな枠を決めてしまう、の2通りがありますが、(1)だと金額は無限に増えてしまうので、結局は優先順位をつけて、ラインを引かなければなりません。そうなると、最初に枠を決めて、その中でやりくりするほうが合理的だという考え方も出てきます。

 砂川 となれば、詳しい内容が出るまでは、経過を見守るしかないですね。使い道を決めるにしても、いつ、どこで、誰が、何を、どうやってとかいう優先順位は付けた方がいいと思いますが……。宇宙やサイバーなど、新領域への対応というのもありますし。

防衛研究所防衛政策研究室長の高橋杉雄氏、芥川賞作家で元自衛官の砂川文次氏による対談「徹底討論 防衛費論争の急所」は「文藝春秋」2023年2月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されている。

文藝春秋

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徹底討論 防衛費論争の急所