赤井 コロナの時期ですね。特に、プロレスが「不要不急」と判断されて試合ができなくなったときは、「プロレスは世の中にとって、不必要なことなんだ」とショックを受けました。もしかしたらプロレスという文化が終わってしまうかもしれない、とまで思ったんです。
でも、世の中が落ち込んでいるときこそ、私たちプロレスラーにできることはあるんじゃないか、とすごく考えて。
リング上で何度も立ち上がって戦う姿を届けたかった
――当時はスポーツや文化活動をどうやってお客さんに楽しんでもらえばいいか、日本中が試行錯誤しましたよね。
赤井 そうですよね。私たちは、「プロレスラーが世間のため、ファンのために何ができるだろう」と考えたときに、試合中に何度やられても諦めずに立ち向かっていく姿を見てほしいと思ったんです。それが、プロレス本来の魅力でもあるから。
――プロレスラーの戦う姿を見せて勇気を与えることが、世間やファンのためになると。
赤井 せっかくお化粧で“盛って”可愛くしても、リング上では汗だくになって、化粧もつけまつげも取れて、見た目的には一番ダメな状態になる。でも、そんな姿を晒しながら何度も立ち上がって戦う姿を見てほしかった。
あと、プロレスで表現できないことはないと思っていて。プロレスの試合には、アツさもあるし、ハッピーな笑いもあるし、怒りも悲しみもある。プロレスラー同士の戦いには、人間の根源的なものが映し出される。だから、それを見た人のなかに、「この人たちがこんなに頑張っているから、私も頑張ろう」と思ってくれる人がひとりでもいたら嬉しいし、一瞬でもそう思えるきっかけを作りたいと考えていました。
――皆さんの戦う姿に勇気づけられた人は多いと思います。
赤井 なんとか無観客試合を配信できるようになったときには、試合中に技を決めたあと、カメラに向かって「私たちもみんなのことを見てるから!」とポーズを決めました。そのタイミングで相手にやられちゃったんですけど(笑)。
そしたら、お客さんから「生で見たかったけど、試合が行われるだけでうれしい」という反応をいただいて。そのときに、「会場にお客さんは来れないけど、カメラを通して繋がっているんだな」と実感しましたね。
撮影=杉山秀樹/文藝春秋