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「100円で買い取った怪談話」で日本トップ10の音声番組に…尼崎で「怪談売買所」を開く男性店主の半生

source : 提携メディア

genre : ビジネス, ライフスタイル

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振り返れば、「なにか怖い話をして!」と親戚に求めた幼少期から40年以上、同じことをしている。オープンしてから10年が経った怪談売買所ではすでに700以上の怪談を集めた。それでもまだ、「怪談が好き」と思う瞬間があるという。

「売買所にお客さん来るでしょ。そう多くはないんですけど、年に1、2回、すごく怖い話する人がいるんですよ。それを聞いてぞーっとして、えーっ! と思う瞬間がもう最高ですよね。だから僕の場合、怖いって思わされた瞬間にすごく笑っちゃうんですよ。嬉しくて。そういう話に巡り合えた時は、ほんとに生きててよかったって思えますね」

怪談売買所にいる時の宇津呂さんはきっと、ヘルパーをしている時とまるで違う顔をしているだろう。冒頭に記したように、取材の日は女性ふたり組、カップル、女子中学生が訪ねてきた。5人とも自分の体験談を話していたが、事前に「短い話なんですよ」「オチがないんですよ」と伝えられても、「大丈夫です」「構いません」とすべての話に真剣に耳を傾けていた。その姿勢からは、語り手への感謝とリスペクトを感じた。

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「誰にも言えなかったこと」を語れる場所になっている

怪談売買所を開く時、宇津呂さんは語り手に許可を得て録音し、それを怪談ライブで話したり、書籍に収録しているが、そうしないこともある。

宇津呂さんには忘れられない訪問客がいる。閉店時間の21時を過ぎて、片付けを始めた時に訪ねてきた女性。「もうお店は終わりですか?」と聞かれ、「まあ、いいですよ」と答えた。しかし、その女性は入り口で立ち止まったまま。「どうぞ」と呼び入れても、もじもじしたまま入ってこない。

その様子を見て、「怪談を語りに来られたんですか?」と尋ねると、女性は胸の内を打ち明けた。1年少し前に大親友が自殺してしまったこと、その出来事がいまだに受け止めきれず、思い出すたびに泣いてしまうこと。その大親友の死にまつわる不思議な体験があり、どうしていいかわからないまま、誰にも話していないこと。赤の他人になら話せるんじゃないかと思って、怪談売買所に足を運んだこと。