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「100円で買い取った怪談話」で日本トップ10の音声番組に…尼崎で「怪談売買所」を開く男性店主の半生

source : 提携メディア

genre : ビジネス, ライフスタイル

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当日は宇津呂さんも驚くほどのお客さんが集まり、三和市場の通路で怪談を披露した。その盛り上がりを見て大いに喜んだのが、三和市場で精肉店を経営している森谷壽さん。森谷さんはシャッターが下りた店ばかりで寂しくなった三和市場を盛り上げようとイベントスペース「とらのあな」を開き、森谷さんが好きな映画や特撮に関係したイベントを定期的に開いていた。

映画好きな宇津呂さんは森谷さんと意気投合し、月に一度、国内外のホラー映画などについて語るイベントに登壇するようになった。迎えた2013年の春、「ここでまた屋台村のイベントをやるから、宇津呂さんもお店出しませんか?」とオファーを受けた。

その瞬間、「あっ!」と閃いた。新ネタを集めるのに苦悩しながら、いつしか夢想するようになったのが、「怪談を売り買いするお店」。お客さんが自ら怖い体験を売りに来てくれたら、どんなに楽だろう……と考えていたのだ。でもまさか実現するとは思っていなかったので、森谷さんに冗談半分で「怪談を売り買いするお店なんてどうですか?」と提案したところ、「面白そうですね! やりましょう」という乗り気の答えが返ってきた。

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冗談半分で提案した「怪談売買所」が口コミで話題に

2013年6月某日、三和市場の「とらのあな」の隣りにあった空き店舗で「怪談を売ってください」という張り紙をしてイスに腰掛けた宇津呂さんの表情はさえなかった。自ら提案したものの、お客さんが来るとは思えなかった。「なにあれ?」と好奇の目に晒され、「アホやろ」と指さされながら、イベントのある2日間を過ごすのは憂鬱(ゆううつ)だった。

その心配は、杞憂(きゆう)だった。森谷さんが積極的に呼び込みをしてくれたおかげで、初日からたくさんのお客さんが訪ねてきたのだ。しかも、自分の話を聞いてほしいという人が大半で、思いのほか収穫が多かった。2日目も客足が絶えることなく、イベントが終わる頃にはすっかり開店前の暗い気持ちを忘れて、「これ、いける!」と胸のうちでガッツポーズをしていた。