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「100円で買い取った怪談話」で日本トップ10の音声番組に…尼崎で「怪談売買所」を開く男性店主の半生

source : 提携メディア

genre : ビジネス, ライフスタイル

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森谷さんに「また機会があったら、ぜひ出させてください」と伝えると、尼崎で最も大きな貴布禰神社の夏祭りが行われる8月1日、2日に再び出店することになった。その2日間も大勢のお客さんがやって来て、それまでの苦労が嘘のようにネタが集まった。

「もうほんまに夢のようでした。こんなことがあるのかと」

それから、三和市場でイベントが行われる春、夏、秋の年に3回、怪談売買所を開くようになると、宇津呂さんは業界注目の存在になった。数冊の怪談本に寄稿した後、2014年12月には初の書籍『FKB怪幽録 異怪巡り』(竹書房文庫)を発売している。

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新聞やテレビにも取り上げられ、それを観た人たちから三和市場に「次はいつあるのか?」という問い合わせが増えて、毎月第2、第4週の土日にオープンすることに。ここでもっと有名になろうとか、もっとたくさんネタが欲しいとギラギラしないのが、宇津呂さんらしい。「準備して片づけるのが大変」という理由で、後に毎月第2週の土日だけにした。

食い扶持は別の仕事で稼ぐ

こう書くと、2013年に怪談売買所を始めてから順風満帆に思われるかもしれないが、食い扶持は別の仕事で稼いでいた。

ここで、ほとんど公表されていない宇津呂さんの副業歴(本業は怪談師)を振り返ろう。怪談師として活動を始めた2009年は、臨時職員として兵庫県庁で働いていた。その後、県庁職員の紹介で尼崎のNPO法人に就職。そこではパソコンインストラクターとして、職業訓練にきた生徒30人から40人ほどに授業をした。宇津呂さんは、怪談師をしていると明かしたうえで、3カ月の授業期間が終わる時、生徒全員に「なにか怖い体験があったら教えてください」と書いたアンケート用紙を配った。その頃にはすでに生徒と打ち解けているので、回答してくれる生徒も多かった。

そのNPOが経営不振に陥ると、知人のツテで障害者施設のヘルパーになった。そこでもほかの職員から話を聞いて、ネタを集めた。「インストラクターやヘルパーは副業で、怪談師をするためにやってる仕事」と考えていたから、本業のために話を聞くことに躊躇はなかった。