文春オンライン

『TAR /ター』野宮真貴が圧倒されたケイト・ブランシェットの名演「他に類を見ないサイコスリラーです」

「週刊文春CINEMA」BEST CINEMA 2023 第2位

2023/12/21
note

衝撃的なラストシーンの主人公

 なかでも圧巻だったのは、自分のポジションに取って代わった指揮者をターが殴り倒すシーン。静かに進行していく時間軸の中で、狂気が一気に爆発するバイオレントなシーンでした。

オーケストラのコンサートマスターでターのパートナーでもあるシャロンを演じたニーナ・ホス(公式サイトより)

 こんなに音楽に苦しめられても、音楽を諦めないター。それは多分、音楽が彼女にとって業のようなものであり、音楽でしか生きていけないからだと思います。ラストシーンでは、それを象徴するかのように、何があっても音楽という自分の舵だけは手放さないというターの姿が衝撃的に描かれていました。

 生と死、繁栄と滅亡、栄華と転落、若さと老い、才能と陳腐さ。それらを背負いながら生き続けるのが私たちなのだということを、この映画を通じて感じました。

ADVERTISEMENT

INTRODUCTION
過去アカデミー賞を2度受賞しているケイト・ブランシェットが、主人公の天才指揮者リディア・ターを熱演。「権威のある地位に就いている人特有の不可解さ」を表現したというケイトは、ドイツ語、ピアノ、指揮をマスターしすべての演奏シーンを自身で演じきった。今作でケイトは第76回英国アカデミー賞(BAFTA)の主演女優賞を受賞したほか、第95回アカデミー賞にもノミネートされている。

STORY
世界最高峰のオーケストラの一つであるドイツのベルリン・フィルで、女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ター。彼女は並外れた才能とそれを上回る努力、類稀なるプロデュース力で、自身を輝けるブランドとして作り上げることに成功する。今や作曲家としても、圧倒的な地位を手にしたターだったが、マーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャー、そして新曲の創作に苦しんでいた。そんな時、かつてターが指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは、追いつめられていく──。

STAFF & CAST
監督・脚本:トッド・フィールド/出演:ケイト・ブランシェット、ノエミ・メルラン、ニーナ・ホス、ジュリアン・グローヴァ―、マーク・ストロング/2022年/アメリカ/159分/配給:ギャガ

『TAR /ター』野宮真貴が圧倒されたケイト・ブランシェットの名演「他に類を見ないサイコスリラーです」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春CINEMAをフォロー