ノワールの名作『悪魔の往く町』(1947年)は、暗く悲しい結末を迎える。同じ小説を原作にした『ナイトメア・アリー』は、さらに残酷で衝撃的だ。監督は『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017年)がアカデミー作品賞、同監督賞など4部門を受賞したギレルモ・デル・トロ。彼は「ダークな話に独特のアプローチをする」とケイト・ブランシェットは語る。
「人間というのはいかに恐ろしい動物なのかということを、ギレルモは観客に見せつける。ただ、温かみをもってやるの。彼は観客の手を握ってあげるけれど、安全なところに置いてはくれない。それが彼のやり方。ほかの監督が手がけたら、きっと暗すぎて人を寄せ付けないものになったのではと思う」
主人公は、カーニバルの巡回ショーで働く野心的な男性スタン(ブラッドリー・クーパー)。彼は読心術を身につけると、愛する女性を連れて都会に行き、ショーを始める。
そこへ客として訪れたのが、ブランシェット演じる精神科医のリリスだ。彼女はスタンの才能を利用して、裕福な患者たちから金を騙し取ろうとする。しかし、彼女にはスタンの知らないもっと大きな目的があった。
「彼女は閉鎖されたオフィスで、金持ちの患者から汚い秘密をたくさん聞いてきた。だから、本当のところ、世の中はどう回っているのかを知っている。それを、スタンを利用して暴露しようとするのよ。でも、スタンは自分のことにしか興味がない、小さい男で、彼女はがっかりさせられることになる」
デヴィッド・ストラザーン、トニ・コレットなどベテラン俳優が多数出演するが、彼女が共演できたのは、ほぼクーパーだけ。
また、彼女の出演シーンは最初にまとめて撮影されたため、コロナ禍で撮影が中断された時には、ブランシェットの仕事はもう終わっていた。
「私が出るシーンでは、ほぼいつもリリスはオフィスにいて、スタンと話をしている。限られた空間で、才能ある役者を相手に演技をするのは、まるで舞台劇のようで楽しかったわ。役作りのためには、1920年代から40年代の女性心理カウンセラーをリサーチした。その頃、その世界では、フロイトやユングのように有名になることはなくても、多くの女性が活躍していたのよ。人間の心理に詳しいパワフルな女性たちは、歴史の中に、実際にいたの」
ブランシェットは完成作を見て大満足したという。昨年12月にニューヨークで行われたプレミアには出席できなかったが、彼女が拠点とするロンドンでは早朝だったにもかかわらず、上映後の会見にはリモートで参加し、映画の完成を祝福している。
「衣装、美術、すべてが美しい。今作は、革命的かつシネマティック。ビッグスクリーンで上映されるものすべてに、『シネマ』と呼ぶにふさわしい資質があるわけではない。でも、これは正真正銘のシネマよ。そのことに安堵し、感動したわ」
Cate Blanchett/1969年、メルボルン生まれ。アカデミー賞では、『エリザベス』(98)で主演女優賞に初ノミネートされ、『アビエイター』(2004)で助演女優賞を受賞、『ブルージャスミン』(13)で主演女優賞を受賞している。近作に『オーシャンズ8』(18)、『ドント・ルック・アップ』(21)など。
INFORMATION
映画『ナイトメア・アリー』
3月25日公開
https://searchlightpictures.jp/movie/nightmare_alley.html