観る者を椅子に縛り付けるような映像の力と、想像を凌駕する物語。2021年のカンヌ国際映画祭で審査員長のスパイク・リーが「こんな映画、観たこともない」と評し、パルムドール(最高賞)を授与した『TITANE/チタン』の監督が、当時37歳のジュリア・デュクルノー。長編2作目にあたる本作で、女性監督としてカンヌ史上2人目の最高賞に輝いた。もっとも、本人は「女性監督」という肩書きには閉口している。
「わたしの映画が、『女性監督なのにすごい』といった意味合いで評価されたわけではないことを祈ります。自分の映画は自分の血肉を分けた“モンスター”。性別にこだわらずユニークでありたい」
車の事故で頭にチタンのプレートを埋め込まれた少女が、それ以来、車に対して性的な興奮を覚えるとともに、過激な暴力性を秘めた人間に成長する。だが、彼女のことをかつて蒸発した「息子」と信じ、献身的な愛を注ぐ消防士との出会いが変化をもたらす。
「わたしにとって愛とは絶対的ですべてを超越するもの。親子であってもカップルであっても、その人間同士でしか起こり得ない。そんな愛を言葉よりも映像で表現したかった。というのも、映画監督としてわたしは映像の力を信じているから。この映画にはダンスシーンが多いですが、みんなが踊りによって一体となるとき、言葉は必要ない。他人と共鳴し、受け入れ、祝福し合う。その瞬間、人生は真実になる。そこに言葉を入れたら嘘になると思います」
理性的な解釈や論理をはねつける物語ではあるが、有無を言わさぬ力業で観る者を引き込む。子供の頃から物語を考えるのが好きだったという彼女はつねに、日常のリアリティよりも架空の世界に興味を抱いてきた。
「子供の頃、寝る前に両親がおとぎ話を語ってくれるとき、わたしはよく自分で話を作り出して両親に聞いてもらった。わたしの世界観について語るなら、きっかけはエドガー・アラン・ポーです。彼の小説のゴシックな世界に夢中になり、それからゴシック映画やホラー映画を観るようになった。なぜかはわかりませんが、わたしにとってこうした映画は、漫画と同じぐらい喜びをもたらした。漫画やホラー映画ではつねに狂った死が描かれる。でもそれはあくまでファンタジーです。そこでは何か社会のタブーや禁止されていることが語られている。たとえばわたしの大好きなデヴィッド・クローネンバーグの映画や、塚本晋也の『鉄男』のように」
ホラー映画は知性ではなく、ダイレクトに感覚に働きかける点でも好ましいと語る。
「ホラー映画というジャンルはわたしにとって、自分の表現したいことを可能にする最高のツールです。すべては起こったことにより説明され、理由付けをする必要もない。観客と自分の映画の絆を作るものは、知的な要素ではなく肉体的なもの。鳥肌が立つ、痛い、とてつもなく興奮する、そんなフィジカルな効果を与える作品を作りたいのです」
Julia Ducournau/初の長編映画『RAW~少女のめざめ~』がカンヌ国際映画祭批評家週間で国際映画批評家連盟賞を獲得。ほか、トロント、サンダンス等の国際的映画祭でも多数受賞。本作『TITANE/チタン』は2021年カンヌ国際映画祭のパルムドールを獲得した。
INFORMATION
映画『TITANE/チタン』
4月1日公開
https://gaga.ne.jp/titane/