驚くほどパワフルな女性映画が北マケドニアからやってきた。5月22日(土)より公開される映画『ペトルーニャに祝福を』は、女人禁制の祭りに飛び入り参加をした1人の女性と、彼女の行動が巻き起こす騒動を描く。

 主人公は、不景気ゆえ仕事が見つからず鬱屈した日々を送る32歳のペトルーニャ。彼女はある日、東方正教会の「神現祭」で幸福の象徴である十字架を手にするが、祭りに女性が参加するのは前代未聞。「神への冒涜だ」と男たちは怒り出し大騒動に発展する。実際に起きた事件を基に映画化したのは、パワフルな女性監督テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ。なぜ女というだけで排除されなければいけないのか? 同じく女人禁制の文化や慣習を持つ日本でも実にリアルな物語だ。

テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ監督 ©Ivan Blazhev

「事件が起きたのは2014年。それから脚本を書き、2018年に騒ぎの現場であるシュティプという小さな町で撮影しました。撮影のための調査を始めた当初、地元の人々の反応は散々でした。『なぜあんな狂った女の映画を?』なんて酷い声ばかり。彼らはみな、彼女のせいで町が騒動に巻き込まれたと苦々しく思っていたようです。ペトルーニャのモデルになった女性はその後町に居づらくなりロンドンに移住したそうですが、当然ですね。でも2019年に映画がベルリン国際映画祭に出品された頃には、現実も大きな変化を迎えていました。シュティプの神現祭でまた別の若い女性が十字架を手にしたんです。5年前とは違い、警察も教会も何も言わず彼女に十字架を渡したそうです。芸術には社会を変える力がある。この映画はそのいい例になったと思います」

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 ペトルーニャはもちろん、一筋縄ではいかない周囲の人々にも惹きつけられる。

「家父長制を支えるのは必ずしも男性だけではありません。ペトルーニャの母親は、女性でありながら盲目的に家父長制を信じその維持に貢献する。反対に父親は娘を心から応援します。また周囲の男たちの多くはペトルーニャを嘲笑し迫害するけれど、マッチョな男であることに馴染めない若い男性警官は彼女に強い敬意を示します。閉鎖的な環境においては誰もが加害者であり被害者でもある。だからこそ、ペトルーニャがどのように迫害されるのか、社会が犠牲者を作り出す過程を見せることが重要でした」

 日本版ポスターに使われた、色鮮やかな壁紙の前に座るペトルーニャの姿が印象的だ。

「警察の取調室には不似合いな壁紙ですよね。でもこれがすべての始まりでした。この森のような壁紙の前に座った彼女のイメージが頭に浮かび、そこから物語をつくっていったんです。ペトルーニャは、まるで野生の森に囚われた無垢な生き物のようで、同時に正義のために戦う闘士でもある。彼女は最初から強いフェミニストだったわけではありません。でも何があろうと正義と真実を信じ、自分にも男と同じ権利があると疑わない。これは彼女の内なる力を象徴的に表した絵だと思います」

Teona Strugar Mitevska/1974年旧ユーゴ(現北マケドニア)に生まれる。子役、ジャーナリストの経験を経て監督デビュー。本作は、妹のラビナ・ミテフスカが女性記者役で出演し、プロデューサーも務めている。

INFORMATION

映画『ペトルーニャに祝福を』
https://petrunya-movie.com/