「日本との関係に対する配慮」が垣間見えなかった
まったく異なるように見える二つの出来事には、大きな共通点が存在した。それは「日本との関係に対する配慮」が垣間見えなかったことである。すなわち、2018年前半に動いた北朝鮮との交渉において韓国政府は、アメリカとの慎重な協議を繰り返す一方で、日本との綿密な意見交換は行われなかった。
2017年5月に就任した文在寅にとって初の訪日となった2018年5月の東京での日中韓首脳会談への出席は、4月の南北首脳会談と6月の米朝首脳会談の間、という絶好の時期に開催されたにもかかわらず、ソウルから東京への「日帰り訪問」として処理され、韓国政府はこの日程を選択した理由を「多忙な為」と説明した。そこには来るべき米朝首脳会談に対し、日本側に協力を依頼しようという真摯な姿勢が存在しないことは明らかであり、また韓国政府が進める北朝鮮に対する融和政策において、日本への具体的な役割や期待は存在しないことを意味していた。
「日本との関係に対する配慮」の欠如がより明確になったのは、10月30日の大法院判決以後の状況であった。大法院判決そのものは、今を遡ること6年以上も前の、2012年に出された大法院自身の判断に従ったものであり、その内容に文在寅政権が介入する余地が存在しなかったことは事実であった。
韓国政府の妥協案が信用を得られるはずがない
だが、重要なのはその後の韓国行政府、つまり文在寅政権自身の対応だった。すなわち、韓国政府は2018年6月、憲法裁判所に対して「慰安婦合意には法的効力がない」とする答弁書を提出し、この内容は韓国人戦時労働者に対する大法院判決からわずか6日後の11月5日、韓国メディアによって明らかにされた。続いて11月21日、韓国政府は同じ2015年に締結された慰安婦合意により設立された「和解・癒し財団」の解散を発表した。
韓国政府はこれと並行する形で、元東亜日報東京支局長の経歴を持つ知日派としても知られる李洛淵国務総理の下で、「韓国人戦時労働者問題解決の為のタスクフォースチーム」を結成し、解決策を模索している。この動きは先の慰安婦合意に関わる動きと明らかに矛盾している。すなわち、仮に巷間伝えられるように、このタスクフォースチームの下で、韓国政府が戦時労働者問題解決の為の、日本政府・企業との間の政治的妥協を模索しているのであれば、その前提には日本政府や企業をして韓国政府の妥協策が信用に値するものであると納得させる必要がある。しかしながら、先立つ同様の妥協策である慰安婦合意について、韓国側が一方的に法的効力を否定し、根幹的措置の一つとなる財団解散を一方的に発表する状況では、そのような信用が得られるはずがない。