「泣くな。顔上げろ! 泣くほど練習したんか? 悔しかったら明日から練習せえ」
環太平洋大の野村昭彦監督は明治神宮大会の閉会式前、大学日本一に届かず準優勝に終わって涙に暮れる選手たちに強い口調で伝えた。
初めて決勝進出を果たし、優勝まであと一歩まで上り詰めた。岡山県にある大学としては初、中国地区大学野球連盟としても東亜大(平成6、15、16年)に続く快挙だったが、栄冠は手元からスルリと逃げて行った。
函館大、法政大、近畿大と各地の強豪を撃破し迎えた決勝戦。7回まで立正大に4対2とリードしていた。だが8回、今大会好投を続けてきた3年生エースの西山雅貴が小郷裕哉(楽天ドラフト7位)にタイムリーを打たれ1点差とされると、伊藤裕季也(DeNAドラフト2位)に逆転2ランを浴びた。さらにこれで勢いづいた立正大打線にダメ押し点を奪われると、残りの攻撃で追いつくことはできず4対6で戦いを終えた。「ウチにも流れはあったのですが、相手の底力を感じました」と野村監督は悔しそうに振り返る。
現役時代は、駒澤大や日本石油(現JX-ENEOS)で投手としてアマチュア球界の第一線で活躍した。広島で名内野手として活躍した兄・野村謙二郎の名前を出されることは多く、現役時代は「腹立つこともありましたよ」と話すが、指導者になって今では「もう一切気にならないですね」と柔らかな表情で話す。
一方で監督としては常に厳しい目で自らの選手たちと相手チームを鋭く観察してきた。それが高校時代の実績が乏しく無名に近い選手たちを躍進させる要因となった。
「頑張れば報われる」システム作り
2013年の就任当時、チームは2部リーグにいた。そこで「1球で下手になることもあれば、1球で上手くなったり、流れが変わるのが野球。そこを見逃さないようにしたいんです」と目を光らせて、気になるプレーがあれば練習を止めてでも問いかけや説明をした。
また、「頑張れば報われる」システム作りにも心を砕いた。4年生の一般就職希望者はそちらに専念するとはいえ186人もの大所帯だ。平等にチャンスを与えるために、部員たちを複数のチームに分けて戦わせる部内リーグを定期的に行って競争を活性化させてきた。そこで結果を残せば翌週からリーグ戦のベンチに入れることも多く、優勝チームへの理事長杯やMVP、首位打者のトロフィーまである。
そうした細かな積み重ねは時期を追うごとに成果となった。毎年秋に行われる明治神宮大会に4年連続で出場。2年続けて8強入りすると、昨年は初戦で慶應義塾大を破って4強入りを果たし、今年は準優勝。
全国大会に出続けることで、環太平洋大の野球を理解し「ここで野球がしたい」「全国の強豪を倒したい」という志を持った選手たちが入部。3番打者として活躍した安藤優汰やリリーフエースとなったサイドスロー左腕・仲尾元貴といった甲子園経験の無い1年生も活躍を遂げて、将来を嘱望される存在となっている。