ある女性記者の質問から「母親の問題」にも言及
この日は外国人特派員協会での会見ということで、海外メディア関係者からの質問が中心。その中で日本の少年野球の特異性が外国人にどう映っているのかを浮き彫りにしたのが一人の女性記者からの疑問だった。
「スポーツではなく武道のようではないか?」
少年野球の試合を観戦したことがあるという女性記者は、そこに付き添っていた母親からこんな疑問が投げかけられたと語り、さらに母親たちからの疑問としてこう問いかけた。
「母親の置かれている環境、例えば夏休みの間、母親がずっと練習を観に行かなければならない。また指導者と子供のために100人分のお昼ご飯を作らなければならないということも知っている」
「お茶当番」が母親の大きな負担に
少年野球の世界では、文字通り選手の母親が監督や指導者のために食事やお茶を用意する「お茶当番」という係りがある。当番はベンチの給水の補給や子供の体調が悪くなったときの手当など、もちろん保護者として選手が安全に練習をできる手助けが目的だ。ただ選手の母親(場合によっては父親が当番をするケースもある)の参加が強制であったり、しかも多くが監督やコーチの雑用をこなす世話係をする(させられている)のが実情だ。これが母親にとっては大きな負担になっていることも多く、「だから野球をやらせたくない」と母親が子供から野球を遠ざけることにつながっているケースも少なくない。
「オフシーズンに堺ビッグボーイズで(練習をする際に)色々なお母さん方と直接、お話や交流をさせていただいています」
母親目線のこの問いかけに、こう応じた筒香は、さらに父兄から聞いた話としてこんな声を紹介した。
「選手のお母さんから聞いた話で(自宅)近所のチームに行ったら、あまりに(指導が)怖すぎて入部できなかったという声が多々ありました。また練習が長すぎて、子供たちが遊びに行ったり、勉強する時間がない。また親もお茶当番があるので子供たちと出かけたり、お母さんたちが何かやりたいことが何もできないという声をありました」
そうした声を受けて現在、堺ビッグボーイズではお茶当番は廃止しているという。
筒香が声を上げ続ける理由
筒香が小学生部のスーパーバイザーを務める堺ビッグボーイズでは、選手不足に悩むチームが多い中で、昨年は70名の子供たちが新たに入部した。
「やり方によってはまだまだ野球をやりたい子供たちは一杯いて、そうした子供たちを教える組織や指導者、そして親たちのあり方が大きく問われている」
野球人口の減少の本質はむしろ野球界の側にある。筒香が問いかけるのはそのことだった。
大人も子供も頑張りすぎない環境を作る。野球がスポーツとして、楽しく、そして子供たちの心身の成長につながるものになること。「勝利至上主義」を捨てて、野球をやる子供たちの笑顔を取り戻したい。
それが筒香が声を上げ続ける、ただ一つの理由である。
撮影:末永裕樹/文藝春秋
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