「楽しいはずの野球なのに、子供たちは楽しそうに野球をやっていない」。DeNAベイスターズの筒香嘉智が、報道陣の前で日本野球界へそんな苦言を呈して驚かせたのは、今年1月のことだった。野球をする子供たちの減少、勝利至上主義による弊害……筒香がこれほどまでに強い危機感を抱いたきっかけは、2015年12月、ドミニカ共和国の野球を経験したことだった。自身初めての著書『空に向かってかっ飛ばせ!未来のアスリートたちへ』から一部を紹介する。
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「野球をしていて辛いことはないの?」
ドミニカのそんな環境の中でプレーをしてみて感じたのは、どの選手も心から楽しそうに野球をしていることでした。
自分を振り返ってみました。横浜高校時代からプロの世界に入るまでの間、こんなに笑顔で野球をしてきたことがあっただろうか。思わず子供の頃にまで、思いを馳せてしまいました。
「何で毎日、そんなに楽しそうなの? 野球をしていて辛いことはないの?」
選手の一人に聞いたことがあります。
すると彼は〈なんでそんなことを聞くんだ!〉とばかりに目を丸くしてこう言いました。
「人生なんだから、いろいろなことがあるし、もちろんオレにだって辛いこともあるさ。でもそういうときは音楽を聴いて忘れることだよ。そうしてまた気持ちを切り替えて、次の日を迎えればいいじゃないか!」
そんな質問をしたことに、僕は少し恥ずかしい気持ちになりました。
もちろんそうは行かないところが僕たち日本人の気質かもしれません。そこにドミニカ人にはない日本人の良さがある、と思います。そう考えれば、ドミニカ人も日本人も、お互いさまの部分はあるでしょう。
でも、そのとき野球が辛いと思ってしまっていた自分が、恥ずかしかったのです。
僕は成長するに従って、だんだんと野球をすることを息苦しく感じていたのかもしれません。ドミニカに来て、ただただ〈野球がうまくなりたい〉と思って毎日、ボールを追いかけ、練習をしていた子供の頃を思い出しました。
あの頃だって、もっと友達と遊びたいとか、うまく行かなくて辛いと思ったことは何度もあったはずです。でも翌日になれば、野球がしたくてどうしようもなくなって、またボールを追いかけていたのです。