文春オンライン

「この家の“誕生日”おめでとう、だね」――「入居記念日」を祝う江東区のマンションポエム

結婚相手選びとマンション購入は似ている

2019/02/14
note

「世界を魅了する東京ベイエリアへ」

「高感度な人々の視線がこの街に集まり始めています。」(野村不動産「プラウド清澄白河リバーサイド」)というポエムとともに「最先端のリーディングシティ・有明」(住友不動産「シティタワーズ東京ベイ」ウェブサイトより)と謳っている物件もあり、すわコミックマーケットのことか!?  と個人的に色めき立ったが、残念ながら違った。いかに世界的に認知されるようになったとは言え、コミケがマンションという高額商品の広告に登場することなどありえない。これがいわゆる「クール・ジャパン」の限界である。

 さて、江東区の中でも特に湾岸エリアの物件にやたらと「世界」を謳うマンションポエムがある。

住友不動産「シティタワーズ東京ベイ」ウェブサイトより

【世界を魅了する 東京ベイエリアへ。】

ADVERTISEMENT

【世界の羨望を集める 新たな中心を日本に。】

【世界に煌めく東京。】

【世界の日本、そして東京。その中心にふさわしいときめきがここにある。】
(以上、すべて住友不動産「シティタワーズ東京ベイ」ウェブサイトより)

 これは、2020年に予定されている世界的大イベントの影響である。有明テニスの森をはじめ、江東区内に予定されている競技会場は多い。マンションポエムがそれをすくい上げないわけがない。マンションにいったいなんの関係が? ときくのは野暮というもの。理由はなんであれ勢いのある街をさらに盛り上げていく。それがマンションポエムというものだ。

 それにしても広告として「国際的イベント」「2020年に向けて」という婉曲な言い方しかできないあたりに、各デベロッパーさんの物の挟まった奥歯を見た感がある。ご苦労様です。

「ねえ、明日何の日か知ってる?」

 さて、これらハイテンションの中でも、特に驚いたポエムがあった。

【今日は大切な記念日 この家の“誕生日” おめでとう、だね】
(阪急不動産「ジオ深川住吉」ウェブサイトより)

 なんと、竣工・入居日を記念日として祝うマンションポエムだ。「ねえ、明日何の日か知ってる?」と奥さまに聞かれた旦那さま。なんだっけ? と訝しがるが、当日はっと気づく。「ここに住んで、今日で10年になるんだな」と。そしてサプライズにバラの花束を贈る。このやりとり、完全に結婚記念日のノリである。

©iStock.com

 まさか「入居記念日」なる概念が提唱されるとは。俵万智氏の「サラダ記念日」以来の衝撃である。

 しかし、考えてみれば「結婚記念日」も不思議な風習だ。もともとイギリス発祥とされているそうで、日本における最初の結婚記念日は明治天皇が銀婚式である「大婚25年祝典」を催したのがはじまりとのこと。一般庶民に普及したのは戦後というから、おそらく恋愛結婚と核家族化の広まりに関係しているだろう。そういう意味ではマンションとあながち無縁ではない。

 ためしに結婚式場のウェブサイトに綴られているポエムを調べてみたところ、なんとこれがマンションポエムに酷似していた。