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白血病公表は「池江本人の意向も大きい」

 池江自身がツイッターで発表したのを受けて、日本水泳連盟が記者会見を開いた。席上、連盟副会長の上野広治氏は言った。

「思いもよらないような診断名でした」

 上野氏に限らず、競泳選手や関係者からは、「まさか」というニュアンスの言葉が出た。繰り返しになるけれども、理不尽はどんな人にもあるにせよ、自身の衝撃の大きさもまた、拭えなかった。彼らの言葉はそれを代弁しているようだった。

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 公表した経緯は、池江本人の意向も大きいとも伝えられた。それを知ったとき、不意に、さまざまなレースでの泳ぎや姿、折々の言葉がよぎった。

「人ができたことは自分もできると思うんです」

 リオデジャネイロ五輪を終えたあとの取材時を思い出す。池江が主戦場とするバタフライや自由形は、体格差が出やすいと言われ、総じて身長が低い日本の選手にとって壁が厚いと言われていた時期も長かった。

「やっぱり体格の差ってすごい大事になってくると思うんです」

 池江も認めつつ、こう続けた。

「身体の大きさで負けてもテクニックや精神力で勝負できると思っています」

 さらには、こんな言葉もあった。

「人ができたことは自分もできると思うんです」

 世界記録も塗り替えることができる、リオですべてのレースを終えた直後、当地でそう語ったのである。強がりからではなく、心から思っているのが分かる笑顔を浮かべた。

今年1月11日、オーストラリア合宿へ向かう前に「テレビ朝日ビッグスポーツ賞」授賞式に出席した池江 ©AFLO

「水泳があって幸せだな、水泳があるから自分がいる」

 大会のたびに言葉に触れ、幸運にも毎年、インタビューする機会にも恵まれた。リオ後に限らず、共通するのは、どこまでもポジティブな姿、そして自分を信じる力だった。

「疲れることはあります。でもレースをすれば忘れられる。楽しいなって思えるんです。もっと自分は行けるって思うんです」

 ときに不調にあえぐことはあっても乗り越えて記録を更新し続け、目標とする世界一へと少しずつ近づく姿が、池江の持つ、前を向く力を、言葉をたしかなものと感じさせてきた。そうした姿や言葉が、池江がアスリートとして持つ傑出した力を、いや、人として備える強さを雄弁に伝えてきた。

 上野氏をはじめ、指導する三木二郎コーチも、病状の発覚後の池江の前向きな姿勢に「頭が下がる思い」と言う。東京五輪出場の可能性を捉え、進もうとしている姿勢をうかがわせた。

 本人の心中は分からない。安易に想像の及ぶところではない。それでも、池江のこれまでを思えば、きっと乗り越えることができる。そう思わずにはいられないのもたしかだ。

「水泳があって幸せだな、水泳があるから自分がいるんじゃないかと感じるんです」

 リオの夏に、笑顔で語った言葉は忘れられない。だから、いつか、笑顔の池江が見たい。

 今はただ、そう思う。