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元ヤクルト・鵜久森淳志が明かした「引退を決めた瞬間」と「第二の人生への思い」

文春野球コラム ペナントレース2019

2019/05/02
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「人のために、誰かのために生きる」第二の人生

 最初に選択を迫られたのが、「野球界に残るか? それとも一社会人として一から勉強していくか?」ということだった。

「日本ハム、そしてヤクルトにお世話になってプロで14年間過ごしました。野球を始めた子どもの頃から考えると、僕の人生のほとんどが野球とともにありました。でも、“このままでいいのかな?”っていう気がしたんです。一度、野球界から離れて、外の世界を経験することも大切なんじゃないのかなって。自分は野球選手としては全然活躍できなかった。でも、外からなら野球界を支えることができるんじゃないのかなって考えたんです」

 このとき、鵜久森の頭に浮かんだのが、現在彼が務めているソニー生命だった。実は15年オフ、日本ハムから戦力外通告を受けた際に、「もし興味があれば」と名刺を受け取っていた。そして、今回のトライアウト終了後にも、以前と同じソニー生命の担当者に声をかけられたのだ。

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「3年ぶりの再会でした。このとき、“今後はどうしたいのか?”と聞かれ、自分のこれからの人生を考えたんです。そのときに、“外から野球界を支えたい”という思いが強くありました。そして、ソニー生命の柏支社こそ、まさにプロスポーツ選手のセカンドキャリアを支援する取り組みをしていたんです」

 こうして、とんとん拍子で鵜久森のソニー生命入社が決まった。初めての会社員生活。初めての金融業界。研修漬けの毎日。生命保険の営業マンとしての人生が始まり、とまどうことばかりの日々。それでも、鵜久森の表情は晴れやかだ。入社当初に抱いていた「いろいろな世界を知りたい」という思いも、「誰かの役に立ちたい」という思いも、ともに満たされているからだ。

「日本ハムをクビになってヤクルトに入ったときに、気づかされたことがあるんです。それまでの自分は常に“自分が、自分が”というように、すべての矢印が自分に向いていて、他者のことを考えていなかったんです。でも、ヤクルトに拾ってもらったことで、思いが乗っかった打席というのか、気持ちのこもった打席が増えたんです……」

日本ハム時代の鵜久森 ©文藝春秋

 真剣に話し続ける鵜久森の表情が、さらに精悍なものへと変わる。

「ヤクルトに入ってから、“ファンのために”とか、“拾ってくれたヤクルトのために”という思いで打席に立つと、明らかに集中力が違ってくるんです。サヨナラ満塁ホームラン、そしてサヨナラヒット。あれは間違いなく、それまでの自分だったら打てていなかったです。両方とも、人のために打った一打だったんです。あのとき、初めて人の役に立てたという思いになれたんです」

 鵜久森の言う「サヨナラ満塁ホームラン」とは、17年4月2日、「因縁の」須田幸太から放った劇的すぎる一打であり、「サヨナラヒット」とは、同じく17年4月13日、中日ドラゴンズ戦で放った殊勲の一打のことだった。

「ヤクルトに入って、人のために何かをする喜びと大切さを知りました。その思いがあるからこそ、今度は野球界の外から、人のために、誰かのために、サポートをしたいんです」

 そして、鵜久森は続ける。

「日本ハムにも、ヤクルトにも本当にお世話になりました。そして、それほどたいした成績も残していないのに、多くのファンの方に温かい声援をいただき、本当に感謝しています。これから、第二の人生でも精一杯頑張っていきます。今まで、本当にどうもありがとうございました!」

 報恩謝徳――ヤクルト入団後に鵜久森が座右の銘としていた言葉だった。「自分の受けた恩に報いて、感謝の気持ちを持つこと」と辞書にはある。この言葉を胸に、鵜久森は第二の人生を力強く踏み出している。人のために、誰かのために――そんな思いとともに、靴底をすり減らしながら、日々、汗を流し続けている。

※鵜久森淳志氏と長谷川晶一トークイベントのお知らせ
『再起-ヤクルトスワローズ- ~傘の花咲く、新たな夜明け~』 (インプレス) 発売記念!
2019年5月14日 (火) 19:00~20:30(開場時間18:30)、八重洲ブックセンター。
https://www.yaesu-book.co.jp/events/talk/16009/

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