お母さんと冷やし中華
「わぁ藤平−石原バッテリーやん!」
どこからか声が聞こえる。そうU−15日本代表でもバッテリーを組んだ2人がプロ野球選手になってまた再びなのだから野球ファンにはたまらない。そして4回をゼロに抑えた次の回、ツーアウト2、3塁で打席には石原彪。応援団にもより一層の力がはいる。
「カーン!」
見事に同点に追いつく2点タイムリーをはなった。
母「良かったぁー!」
かみじょう「お母さん良かったですね!!」
母「良かったー、冷やし中華こぼさなくて!!」
かみじょう「えっ……」
どうやらお昼ご飯に食べようとしていた冷やし中華を開ける寸前に息子が同点タイムリーを放ったらしく、嬉しさのあまり思わず立ち上がってしまい、封を開けていれば前の方に冷やし中華が……
「なんで今食べようとしててん!?」
周りからいじられる母。
同点に追いついたのも束の間、オリックスの5回裏の攻撃はあっと言う間にノーアウト1、2塁。流れ的にも1点もやりたくない場面でセカンドランナーが若干飛びしたとみるや、石原選手は矢のような送球でセカンドランナーを刺してしまう。
「おい、冷やし中華こぼすなよ!(笑)」
振り向いた前列の仲間からいじられる母。
さらにすかさず1塁ランナーも盗塁を試みるも、セカンドベース上のグラブにスライディングしてくるのがわかるくらいのタッチアウト、石原選手の強肩で気づけばツーアウトランナーなし。
「石原さん、冷やし中華食べる暇ないやん!」
「ごちそうさまでした」
「食べたんかーい」
ここ数年探しつづけている「未来の嶋基宏」
試合は結局2−2の引き分けで終わり、石原選手本人と試合後に少しお話も出来た。
かみじょう「ナイスバッティング! ナイス強肩!」
石原「ありがとうございます。まだまだです」
かみじょう「あなたのお母さん冷やし中華こぼすくらい応援してたよ!」
石原「なんですかそれ(笑)」
この試合で活躍をみせた石原選手は8日のホークス戦から一軍に合流するや、7点差をひっくり返す大逆転勝ち、そして9日には今シーズン一軍初スタメンマスクをかぶり、序盤に点は取られるも9回裏に銀次選手のタイムリーで、2試合連続のサヨナラ勝ちを納めた。何かいい空気をもっているのかもしれない。
ふと2年前に泉の練習場、ベースボール・ファースト・リーグ選抜との試合で5打数5安打、両打席で2本のホームランを放った当時の田中和基選手を思い出した。「未来の松井稼頭央」を探していたチームにこれほどハマる選手はいないと確信した。
そしてここ数年探しつづけている「未来の嶋基宏」。しかし技術的な事だけでは到底辿り着けない絶対的な信頼度はまだ誰しもが近づく事も出来ていない。ただ何年かかるかはわからないが、あの強肩に僅かではあるが、確かな光をみたのは僕だけではないと思う。石原彪、ひょっとすると彼の活躍が今シーズン、そして未来の楽天の命運を握っているかもしれない。
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