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つかえないやつは切りすてろ? 非生産的な人間は死んでもいい?

 よりよくなれ、よりよくなれ。そういって、自分の身体をきたえてく。自分の身体に有用性の鎖をまきつけていく。にっちもさっちもいきやしない。身も心もカッチカチだ。いきぐるしい!

 でさ、そんなのイヤじゃん。だから、わたしなんぞはいつでもひとはドロップアウトしていいんだ、まわりになにをいわれても好きなことをやっちまおうよっていうんだけど、それでも有用性の鎖ってしつこいんだよね。自分事でいいますと、カネになんてならなくてもいいから、好きなだけクソみたいな文章かきまくってやるぜっておもっているんだけど、気づけば、そういう文章をかくのに役にたつ本ばっかりよむようになっていてね。いつのまにか、ひとのいっていることをつかえる、つかえないで判断していたりする。テメエの脳天、カッチカチさ。つまらねえ。

 もしかしたら、それじゃ打つ手なしじゃんっていうひともいるかもしれない。でも、そんなあなたにモーマンタイ、安心してください。いつだって、だれにだって、執念深い貧乏性がなさけねえほどしみついている。ほら、死を賭して一円玉をひろいにいくみたいにね。

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「一円玉を笑うものは一円玉に泣く」©iStock.com

 チリンチリ~~ン、チリンチリ~~ン。一円玉がおちる音。コロコロ、コロコロころがっていく。アア、アアァァッ!!! ガマンができない。テコテコ、テコテコついていく。ころがるさきにはダンプカー。ああ、終わった、死んだ、スッテンテン。テメエの人生くだけちる。命まるごと投げすてて、身体が勝手にうごきだす。シャカシャカッ、シャカシャカッ。あの世の力でうごきだす。自分をこえろ、人間をこえろ。ダンプカーより高速でうごけ。それでなにがしたいのか?

 きまっているぜ、一円玉がほしいだけ。イヨーシッ、あとはその音にどれだけ敏感でいられるかだ。そこにとびこんでいく瞬発力をやしなっていけるかどうかだ。見切り発車でかまわない、真っ暗闇につっこんでゆけ。だれにもなんにもしばられない。孤独のメロディを奏でてゆきたい。アディオス!

執念深い貧乏性

栗原 康

文藝春秋

2019年4月25日 発売