【大山くまおの推薦文】
ゴミ清掃員として働く日々を綴ったエッセイ『このゴミは収集できません』がベストセラーになったマシンガンズ・滝沢秀一さんは筋金入りのドラゴンズファン! 東京で生活を送る滝沢さんに、愛する息子をドラゴンズファンにしようとする悪戦苦闘ぶりを綴っていただきました。同じ子を持つ身として「あるある」ばかりですが……。その先に見えた一筋の光に胸を打たれました。ぜひ最後までお読みください。
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どーも、はじめまして! マシンガンズの滝沢と申します。
よろしくお願いし……えぇ、確かにそうでしょう。お前誰だよと言う声が聞こえてきますが、それは仕方がありません。21年間、売れたことがないので、みなさんの言い分が正しいです。
2人ともツッコミというダブルツッコミで「爆笑レッドカーペット」や「エンタの神様」に出演させて頂いたのですが、それも昔のことで、今ではごみ清掃員が本業で、働き過ぎて『このゴミは収集できません』というごみ清掃の本を出したくらいです。えぇ、芸人としては活躍しておりません。
そんな僕は、子供の頃から大の中日ファンで、今年で35年の月日が経ちます。
筋金入りです。芸人として売れない年数よりも、はるかに長くドラゴンズを愛しております。おまけに東京の足立区出身。在京ドラゴンズファンの方は気持ちをわかってくれると思いますが、大人になるまでドラゴンズファンに会ったことがありませんでした。
さらに父親が巨人ファン。僕にとってはドラゴンズを応援することは孤独との闘いだったのです。学校でもジャイアンツ、家庭でもジャイアンツ。挙句の果てには、ジャイアンツを応援しなかったら大人になってから出世しないと父親は訳のわからない洗脳をかけてきました。負けませんでした。どこかで僕のことを見かけたドラゴンズファンの方、褒めてください。
そんな僕には今、野望があります。
「息子をドラゴンズファンにしたい!」
うちには6歳になった息子と2歳の娘がいます。子供に僕と同じ思いをさせるのかという気持ちもありますが、僕はドラゴンズを愛して良かったと思っています。引退を表明した浅尾から岩瀬の黄金リレーを見て涙もしたし、53年振りの日本一でファンになって初めての日本一も経験できました。ドラゴンズの思い出は数えればきりがありません。
息子を中日ファンにしたいという気持ちは父親のエゴだとわかっていますが、最悪の場合、ドラゴンズを応援しないと大人になってから出世しないぞ、と訳のわからない洗脳をする覚悟だってあるのです。
令和最初の日に、息子と一緒に初めてのプロ野球観戦
息子をドラゴンズファンにするために、家族全員で東京ドームに行ってきた。いつか大人になった息子に「令和、最初の日はドラゴンズを応援していたんだよ」と言いたくて5月1日を選択した。
失敗だった。初回、まばたきをしている間に4点取られた(山井投手、5回5失点)。鳴り止まないジャイアンツファンの歓声に奥歯を噛みしめながら、溜め息に包まれるレフトスタンドで頑張れーと叫ぶ僕の横で、息子はお地蔵さんのような顔をしていた。嬉しいも悔しいも全くない無の表情をしていた。
ドラゴンズファンの歓声に包まれて、一緒に騒げば、きっと息子も楽しいだろうが、守備は祈って見守るしかない。6歳に祈りは難しいだろう。
僕は食べ物で釣ることにした。「ポテトチップはどうだ?」「喉はかわいてないか?」とご機嫌をうかがい、さらに枝豆、唐揚げ、ポテトフライを買ってきて与えた。
ビシエドが塁に出て喜び方を教えるも、後続が菅野にねじ伏せられた。息子はお地蔵さんの表情は崩さず、枝豆を食べ続けた。
2回裏には坂本のホームランが飛び出した。令和初の本塁打を目に焼きつけた。とんでもない日に来たもんだ。0−5。頼む! ルーズベルトゲームになってくれ! そう願うも菅野は抑える、抑える。
こうやって応援するんだと息子にメガホンの叩き方を教えるもお地蔵さんのような表情で「ヒカキンが見たい」と駄々をこね始めた。今の敵はジャイアンツではなく、ヒカキンだった。
子供をドラゴンズファンにするのは、これほどまでに苦労するものなのか? ご機嫌をとりながらやり過ごすと、この日最大の見せ場がきた。6回表。渡辺と京田の連続ヒットでツーアウトながら、一、三塁の好機がやってきたのだ。
「ここだ! ここで応援しなければ、次いつ応援できるかわからないぞ」
「ねぇ、ヒカキン見たい」
「まだ言っているのか? わかった。今日、ドラゴンズが勝ったら仮面ライダージオウのベルトを買ってやる」
もう訳がわからなかった。なんでドラゴンズが勝ったら、仮面ライダージオウのベルトを買わなければならないのだ? ただでさえ売れない芸人が家族4人で野球観戦に来た時点で大変な出費。その上、ジオウのベルトなんて買ったら我が家は破産してしまう。
今は全力で大島を応援するしかなかった。しかし、大島はあえなく三振に倒れ、中日ファン全員が東京ドームの天井を見てため息をついた。