「結局、何を描くかじゃないんだ。いかに描くかを考えているんだよ」
キッと前を見据えて、画家の小林正人さんが言い切った。
東京六本木のギャラリー、シュウゴアーツで始まった小林正人「画家とモデル」展の初日。会場で本人の話を聞けたときのこと。
なるほどアーティスト自身がそう表明してくれると、観る側のモヤモヤも吹っ切れる。古い名画はともかくとして、近代から現代にかけての絵画と対面したときにはとかく、「これって何が描いてあるの? よくわからない」と戸惑ってしまうものだから。
描く側から「何を描くかは問題じゃないんだ!」と断言してもらえれば、こちらの観る態度もぴたり定まるというものだ。
ならば、と会場で「何を描いている?」との疑問をいったん脇に置き、展示を眺め渡してみる。
手で描かれた荒々しくも明るい絵
ここにあるのは2017年から制作が始まったシリーズで、メインとなる大きな絵画はふたつある。手前の部屋に、うしろを向いて横たわる女性の巨大な像の絵。銃痕だろうか、背中の肉が一か所ひしゃげているのが目に焼きつく。
奥の部屋を覗くと、さらに大きい馬の絵があって気圧される。痩せ気味で、毛並みも乱れているけれど、思うまま走るにはじゅうぶんな筋骨がしっかり備わっている様子。くわえているのは絵筆だ。ということは、この馬は絵を描く者なのか。
どちらの絵も、筆のタッチは独特だ。べたりと生々しく、大味な塗り方に見えるけれど、馬の毛や女性の肌の質感はよく伝わってくるし、そこに光の粒がたまり留まっているようにも思える。じつはこれ、筆代わりに自身の手を用いて描かれている。荒々しくも明るい印象は、この筆致からくるのだろう。