「ギザギザハートの子守歌」に始まり「涙のリクエスト」その他のヒット曲で同世代の若者を熱狂させたチェッカーズ時代から、「TRUE LOVE」や「Another Orion」で大人のポップスを確立したソロシンガーとしての活動、そして現在に至るまで。

 藤井フミヤといえばまずは「歌う人」として世に知られる存在だが、くわえて彼は早くから「描く人」でもあった。1993年に初個展を開くなど、ビジュアルアーティストとしての顔も併せ持つのだ。

©深野未季/文藝春秋

「描くことはずいぶん前から日課です。観るほうも欠かさない。これぞという展覧会があれば、必ず時間をとって足を運びます。一点ずつじっくり観ていくほうなので、大きい美術館なら数時間はそこで過ごすかな。

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 好きなのは、著名なアーティストの回顧展。生まれてから亡くなるまでの生涯を、作品によって丸ごと追えるじゃないですか。芸術家の一生はたいてい波乱万丈で、内面はさらに激しく揺れ動いている。それを読み取っていくのがおもしろくてしかたない。会場を出るといつも、ちょうど大作映画を一本観終えたような気分になる」

 直近で大いに興味をそそられたのは、なんといっても国立新美術館で開催中の「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」展だ。

グスタフ・クリムト《エミーリエ・フレーゲの肖像》1902年 ウィーン・ミュージアム蔵 ©Wien Museum / Foto Peter Kainz(「ウィーン・モダン」展にて展示中)
エゴン・シーレ《自画像》1911年 ウィーン・ミュージアム蔵 ©Wien Museum / Foto Peter Kainz(「ウィーン・モダン」展にて展示中)

ウィーンの墓まで訪ねる、クリムト・シーレ好き

「クリムトとシーレの作品がこれほどまとまって観られるのはすごいこと。彼らのことは昔から大好きで、ウィーンへ行ったときには、クリムトのアトリエとお墓まで訪ねましたよ。

 今展は、彼らの創作の流儀がたいへんよくわかるものでよかった。まず度肝を抜かれるのは、クリムトの《旧ブルク劇場の観客席》。ものすごく精細に描かれていて、小さい人物像もすべてリアルに描き分けられている。クリムトというと大胆な色彩とかデザイン性に優れた画面構成がウリだけど、それよりもまずは圧倒的にうまいんだなと再確認させられますね。これを20代のころに描いたというんだから、もう呆れるしかない。あまりにすごいから、絵を描く身からすればちょっとやる気が削がれてしまう(笑)。

シーレの自画像のポーズを真似する藤井フミヤさん ©深野未季/文藝春秋

《エミーリエ・フレーゲの肖像》もいい。やっぱり画面の構成、デザインセンスが抜群なんですよ。いろんな模様が組み合わされて画面ができている。これは明らかに日本美術の影響を受けたんでしょう。

 クリムトもそうだけど、シーレはドローイングがたくさん観られます。瞬間的にもののかたちを押さえることが、きちんとできたんだとよくわかりますね。自画像なんかもあってシビれるんだけど、自分では自画像って描くのがあまり得意じゃない。やってみたことはあるんだけど、そこにおもしろさを見出せなかった。きっとよほどのナルシストじゃないと、あんなにたくさん自画像を描くことってできませんよ」