一目で変わるクリムトの新鮮さと、シーレの激情
クリムトといえば、官能的な女性の肖像でまずは知られる。画面の隅々まできらびやかな色が響き合う色彩感覚と装飾性、極端に画面を平面化して捉える描き方にも新鮮さを覚えるものだ。そうした特長は、今展出品作からもたっぷり味わうことができる。
たとえば《エミーリエ・フレーゲの肖像》は、パートナーとして長い時間を共に過ごした女性を描いた一枚。デザイナーだった彼女のファッションの描写に力が入るのはもちろんなのだけど、ドレスの色や柄がここではひじょうに複雑に絡み合い、それが絶妙なバランスを保って画面構成の妙につながっている。クリムトがたいへん筆が立つ画家だったことは、展示会場の入口近くに掛かる20代のころの作《旧ブルク劇場の観客席》の細密な描写からもよくわかるところ。でもそれにもまして、センスのかたまりだったのだろう、この画家は。そう実感させられる。
クリムトよりずっと下の世代にあたるシーレは、若さの特権をしゃぶり尽くさんとでもいうのか、激情にそのままかたちを与えたような作品が多い。今展には幾枚もの素描が出品されていて、その迷いのない力強い線の1本ずつが描き手の感情をありありと表現している。人の内側にあるものをえぐり出して白日の下にさらすことを、ここまであっけらかんと為してしまった画家も他にいまい。
ウィーンという大都市が長年かけて築いた文化が熟しきったとき、このように濃厚な個性を持つ表現者が出現した。場所と時代が彼らに乗り移り、絵筆を動かしめたのだと思えてくる。
ウィーンという街の魔力を、暑いさなかの東京でとくと堪能したい。