世界的人気を誇るオーケストラ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団には「日本語ペラペラ」の兄弟が在籍しています。日本人ピアニストを母に、スウェーデン人ヴァイオリニストを父に持つヘーデンボルク兄弟。オケ運営のことから音楽趣味まで、来日中のお二人にいろいろお聞きしてみました。
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ウィーン・フィルメンバー若手だけのカルテットは珍しいんです
——ウィーン・フィルの若手メンバー4人による「ニコライ弦楽四重奏団」を結成されて、新譜もリリースされましたね。このカルテットはどういう経緯で結成されたんですか?
ベルンハルト・直樹・ヘーデンボルク(以下、直樹) せっかくカルテットを組むなら長く続けたいなあと。だから、まずは気の合う「若手」に声をかけました。
ヴィルフリート・和樹・ヘーデンボルク(以下、和樹) 僕が77年生まれで、直樹が79年生まれ。まだ若手と言っても許される年齢だと思うんですが(笑)、若手のうちは先輩からカルテットやらないかと声がかかることもあるんです。もちろん勉強になることばかりなので「ぜひやらせてください」となるんですが、意外とウィーン・フィルの若手同士のカルテットってあまりなかったんですよ。そういう意味では、珍しいことなのかもしれない。
やっぱりいつかは「ラズモフスキー」をやっちゃいますよね
——今回の新譜はべートーヴェンの弦楽四重奏曲「ラズモフスキー」の第1番から第3番までが一気に収録されています。これはベートーヴェンがラズモフスキー伯爵に献呈した曲なんですね。
直樹 そうですね。弦楽四重奏は室内楽の王道みたいなものですが、中でも「ラズモフスキー」というのは名曲中の名曲。
和樹 やっぱりいつかは「ラズモフスキー」をやっちゃいますよね(笑)。
——やっちゃいましたか(笑)。
直樹 もちろん、私も兄も学生のとき組んでたカルテットや、ウィーン国立歌劇場の室内楽シリーズとか、いろんなところで弾く機会はありました。でも、こうやってレコーディングするとなると、またちょっと意識が違ってきますよね。なんか、人一倍準備してたよね?
和樹 僕? そうだね。曲を分析するためにベートーヴェンに関する本を色々買って読み込んだりした。あと、名演と呼ばれる過去の録音はあえて一切聴かないようにした。昔弾いた時の譜面も振り返って見ないようにもした。まっさらな状態で「ラズモフスキー」に向かい合おうと思ったからね。
直樹 スコア(全てのパートの総譜)の分析もしていたよね。
和樹 そう。楽器を持たず、まずはスコアだけ読むところから始めたんです。その上で、僕のパートである第1ヴァイオリンはどういう弓使いをすればいいか、ボウイングをセッティングして、それを譜面に書き込んでいった。
直樹 私はほとんど譜面に書き込まないタイプなんですが、兄は細かく書き入れるほうなんですよ。