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ウィーン・フィルの“日本語ペラペラ”兄弟が語り合う「辛いときに“効く”曲」

ヘーデンボルク兄弟 来日インタビュー

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ウィーン・フィルのメンバー同士で演奏する「いいところ」

——そうやって一人一人が曲を勉強して、練習して、その上でカルテットで合わせるんですね。

和樹 第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンがその前に何度か会って音程やオクターブを確認することはありますけどね。

直樹 あと普通だと、4人で一緒にスコアを読み始めるところから始めたり、ベートーヴェンの指示する「フォルテピアノ」は一体どういうものだろうみたいなことを話し合ったりするものなんです、カルテットって。価値観を一緒にする作業が、まず最初なんですよね。でも私たちのいいところは、目指す音楽のイメージが最初から共有できているところ。今回録音したベートーヴェンで言うと、ベートーヴェンが音楽で表現しようとしている「言葉」は、私たちがウィーン・フィルで一緒に過ごしている中で共通体験しているものなので、自然とスタートラインは高いところから始めることができたんです。

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チェリストの弟 ベルンハルト・直樹・ヘーデンボルクさん

和樹 ウィーン国立歌劇場、僕らは単に「オペラ座」って呼んでいますけど、そこではベートーヴェンの歌劇『フィデリオ』をしょっちゅう上演しているので、ベートーヴェンといえばこんな感じ、という共通言語はあるんです。

——今、オペラ座の話がありましたが、ウィーン・フィルのメンバーというのは、ウィーン国立歌劇場管弦楽団のメンバーの中から選ばれるのですよね?

和樹 そうですね。オペラ座のメンバーになるにはもちろんオーディションがあって、さらにウィーン・フィルの正式メンバーとなるためには、少なくとも3年間オペラ座の団員として実力を示してから入会の申請をし、総会での投票で決まる。ウィーン・フィルって珍しいんですが、メンバーが自主運営するオーケストラなんですよ。

 

——つまり、オケのメンバーがそれぞれ「運営側」としての仕事も持っている。普通は演奏する団員と運営するスタッフがそれぞれいてオーケストラは運営されているものですけど、ウィーン・フィルはその点がユニークですよね。

直樹 誰もがウィーン・フィルをどうすべきか意見が言えるし、逆にいうと一人一人がどうすべきか意識を持っていなければならない。だから情報の共有もしっかりしているし、忙しい舞踏会のシーズンになったらお互いに手伝うとか協力体制も自然とできている。音楽家たちが支え合う、とてもいい形だと思っています。

楽譜係として「データベース革命」を起こした

——和樹さんは2004年からウィーン・フィルの正団員になられていますが、運営側としてはどんなお仕事をされていたんですか?

和樹 僕はライブラリアンに興味があったので、それを8年間やりました。いわゆる楽譜係ですね。自分たちの持っている譜面を管理するところから、レンタル譜面の注文、そのコピーからバインディング、ボウイングの書き込み、パッキングして送り返すまで、本当に楽譜に関わることは何でも。

 

直樹 データベースも作ったんでしょ?

和樹 ああ、そうそう。だってDOSレベルのデータベースと、「アクセス」で管理されたデータベースと、データ化されていない原典の3つを見比べて一致すれば正しいデータだろう、みたいな状態だったんだから(笑)。これじゃ、ちっともデータベースじゃないよと思って、プログラミングしてシステムを作り変えた。革命といえば革命だったのかもしれないけど……(笑)。でも、だんだん演奏とこの仕事の両立ができなくなってきて、やめました。

——今はどんなお仕事をしているんですか?

和樹 オペラ座のほうの協議会、労働組合とはちょっと違うんですが、組織内の団員を守るような団体ですね、その会長をしています。