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メルカデールよりも、女性を描くほうが難しかった

海堂 確かにそうですね。資料、歴史書を読んで描くのはベーシックな執筆手法で、私がゲバラやフィデルを描いている手法も同じです。メルカデールを描くにあたり、その人物像を理解する難しさはありましたか?

パドゥーラ 小説を描くにあたっては登場人物の考え方や言動、思考を理解することが大切です。でも正直に言えばメルカデールよりも、女性を描くほうが難しかったですね。この世界で、われわれ男性作家にとっては女性はもっともミステリアスな存在ですから。

海堂 まったく同感ですね(笑)。その意味では、『犬を愛した男』では、カリダッドとアフリカという2人の女性が魅力的でかつ圧倒的な迫力で描かれていたと思います。2人は実在したのですか。

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パドゥーラ ええ、2人とも実在の人物です。男尊女卑が色濃い時代、男性と対等に任務をこなした女性たちで、カリダッドはソビエト連邦時代のKGBの工作員で、暗殺者となる息子・メルカデールの背中を押しました。メルカデールが強く想っていたアフリカという女性も、エージェント・パトリアとして現実に活動していました。

©橋本篤/文藝春秋

海堂 そのふたりの女性は、これまでさまざまな物語で描かれてきた女性と一線を画した、画期的なもので、それだけでもこの物語は一読の価値があると思います。

なぜ日本人作家が、ゲバラとカストロを描こうと思ったのか?

パドゥーラ ところで日本人作家である海堂さんがどうして、キューバ革命を描こうと思ったのでしょうか。

海堂 そもそものきっかけは2012年「旅のチカラ」というNHKのBS番組に出演した際、チェ・ゲバラとキューバを目的地に選んだことでした。当時、キューバは訪問しにくい国だと認識していたので、番組取材で行けば楽チンかな、と(笑)。旅の中で成長する、というコンセプトの番組だったので、番組ディレクターから「旅の間に短編小説を1本、仕上げてください」という無茶な要望を出されたんです。そんな無理難題をクリアしたのに、番組では小説創作場面はすべてカットされてしまって(笑)。でもせっかく書き上げたので、短編を掲載してもらったのが、始まりです。その後連載のお話をいただき書き始めたのが「ポーラースター」シリーズです。

 私には膨張癖と網羅癖があって、最初はチェ・ゲバラの生涯を描く4部作構想だったのですが、キューバ革命の理解にはフィデル・カストロの人生を、キューバの歴史を絡めて書くことが必須だとわかり、それが膨らみつつあります。執筆のために勉強しているうち今や、西半球史を描きたい、という野望を持ち始めているんです。

パドゥーラ キューバを超えて、中南米全体や北米まで含めた西半球史を、ですか?