キューバ革命の英雄チェ・ゲバラの没後50年となる2017年10月――。
ゲバラに魅了された二人の表現者が相次いで作品を発表した。
ベストセラー作家・海堂 尊は、ゲバラの生涯と激動のラテンアメリカを描いた四部作『ポーラースター』の第二巻『ゲバラ漂流』を刊行。
日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した名監督・阪本順治は、ゲバラから戦士名を授けられた無名の日系人を主人公とした映画『エルネスト もう一人のゲバラ』を送りだした。
二人の男が惚れた「エルネスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナ」の魅力に迫る。
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阪本 チェ・ゲバラをめぐる四部作『ポーラースター』を執筆されている海堂さんに、お会いできて光栄です。ゲバラの没後50年となった10月9日の命日には、映画『エルネスト』のトークショーにも出演していただき有り難うございました。
海堂 映画館の舞台の上に献花台があったんです。ゲバラを描く作家として、彼の命日に花を手向ける機会をいただき、私の方こそ、感謝です。阪本監督はその日は、舞台挨拶で広島にいらしたんですよね。
阪本 そうなんです。ゲバラは、キューバ革命を成し遂げた後、1959年7月に広島を訪れています。今より規模の小さかった平和記念資料館に1時間半も滞在した。原子力爆弾による被ばくの後遺症や、第五福竜丸の水爆実験の調査についての展示を医師として見ていた。2016年5月に来日したオバマ・アメリカ大統領(当時)は、わずか5分程度の滞在だったというのに……。
海堂 ボリビアからキューバに留学した医学生の日系人が、祖国の圧政からの解放を目指してゲリラ戦士になるまでを描いた映画『エルネスト』でも、ゲバラの広島訪問の場面は印象的でした。
阪本 海堂さんと同じく、ゲバラは医師ですから、医師として核戦争の恐ろしさを痛切に感じたうえで、1962年のキューバ危機を迎えたはずなんです。当時のキューバを描くにあたって、広島の場面を使うのは、日本人の映画監督じゃないとできないだろうと。
海堂 キューバでの撮影は、いろいろと大変なこともありましたか?。
阪本 キューバは社会主義国ですし、国営の機構との合作ですから、それはいろいろと(笑)。当初はキューバ軍の全面協力を約束されていたのですが、撮影のための武器や軍服がまったく届かない。スタッフに聞くと、ラウール・カストロ国家評議会議長がハンコを押してくれない、と。ゲリラ戦の場面から撮影を始めるので、主人公のフレディ前村ウルタードを演じるオダギリジョーも食事制限をし、大減量したまま10日以上、待機することになり……。当然、髪も鬚も伸ばしっぱなしです。
海堂 減量状態のまま10日間、待たされるのはつらい。
阪本 現地の水や食事で体調を崩すスタッフも続出して、監督の私が寝込むわけにいかないですから、モヒートだけを飲んで過ごしていました(笑)。
海堂 それはすこし羨ましいですね。