「キューバ革命」から60年を迎えた今、キューバにゆかりのある2人の作家が、キューバの2人の英雄フィデル・カストロと、チェ・ゲバラについて語り合った。

 週刊文春で、フィデル・カストロの半生を描く『フィデル!』を連載中の海堂尊氏は1961年、日本生まれ。売上累計1000万部を超える海堂氏は、キューバ革命の立役者、チェ・ゲバラとフィデル・カストロの生涯を描くことで、世界史におけるキューバ革命の真の意義を浮かび上がらせようとしている。

 語り合う相手は1955年、キューバに生まれ、ソ連崩壊に伴う「ペリオド・エスペシアル」(困難な時代)のキューバを体感した作家・レオナルド・パドゥーラ氏だ。パドゥーラ氏は、スペイン語圏で大ヒットした『犬を愛した男』の日本語版の発売に際し、来日した。

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 現代キューバを、国内と国外という、違った視点から見ている2人が、キューバ革命と、その後のキューバ社会について意見を交わした。

レオナルド・パドゥーラ氏と海堂尊氏。都内のインスティトゥト・セルバンテス東京にて。 ©橋本篤/文藝春秋

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スペイン語圏では大ヒットも、キューバでは「発禁扱い」だった?

海堂 お会いできて光栄です。『犬を愛した男』は700頁近くある大長編でしたが大変スリリングな上、寺尾隆吉先生の名訳のおかげもあり、2日で一気に読み終えてしまいました。

 物語は1977年、キューバの首都・ハバナで作家イバンが偶然出会った謎の男性が「トロツキー暗殺の真相」について打ち明けるところから始まります。以後、物語は3つの舞台で時空を交錯させながら展開していきます。ひとつはスターリンとの政争に敗れソビエト連邦を追われたレオン・トロツキーの亡命生活、そこに1940年にメキシコでトロツキーを暗殺したラモン・メルカデールの軌跡をスペイン内戦を絡めて描き、3本目の柱としてキューバ市民イバンの視点から、現代キューバの情勢を踏まえて描いています。

 そもそもキューバではトロツキーは、無視された存在だとお聞きしていますが、こうした、一般社会に馴染みの薄いテーマを選んだのはなぜですか?

パドゥーラ 私が「トロツキー暗殺の真相」を書こうと思ったのは、この出来事が、スターリンの恐怖社会を象徴するもので、「共産主義的ユートピア」の理想社会の実現を阻んだ、重大な転換的事件だったと考えているからです。この主題は禁じられているわけではないので「発禁」ではなかったのですが、キューバ国内では販売に消極的だった時期もありました。

海堂 暗殺者のメルカデールが、エージェントとしてトレーニングされていく過程で、自分を見失っていく様が見事に描かれていて、迫力がありました。この辺りは、ベースになる資料があったのでしょうか、それとも想像で書かれたのでしょうか。

パドゥーラ 旧ソ連で、特殊任務に関わった工作員(スパイ)が、どのような施設で、どのような訓練を受けていたかという資料や記録は残っています。メルカデールが、スターリンの秘密特殊部隊で訓練を受けていたかは立証できなかったのですが、スターリンにとってはとても重要な案件だったのですから、言わずもがなでしょう。