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キューバ革命から60年。2人のベストセラー作家が、カストロとゲバラを語る。

genre : ライフ, 読書, 歴史

キューバ人作家にとってのチェとフィデルの存在。

海堂 『犬を愛した男』に、キューバにおける絶対的な存在であるフィデルが出てこないのはなぜでしょうか?

パドゥーラ 私は多くの本を書いてきましたが、これまでの本には、フィデルは1度も出てこないのです。それはコーランの中に、ラクダが出てこないのと同じ理由で、必要がないからなんです。

海堂 あまねく広がっているから認識しなくていいということでしょうか。ただ、トロツキーを暗殺したメルカデールという工作員の亡命を受け入れるときには、フィデル・カストロが深く関与したのではないですか。

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パドゥーラ それはもちろん、最終的には確実にフィデルの決断でしょう。そうしたことも含めて、キューバ人にとってはあまりにも自明なので書く必要がない、ということなのです。

海堂 私はチェ・ゲバラを描きたくて、「ポーラースター」シリーズを始めたのですが、書き進めていくうちにキューバ革命は、フィデルの革命だと理解したんです。そしてチェは、その協力者というスタンスです。パドゥーラさんにとってチェ・ゲバラとフィデル・カストロというのはどのような存在なのでしょうか?

パドゥーラ 2人とも、私が物心がつく以前から常にそばにいた、とても大きな存在です。ただし2人には大きな相違があります。チェは39歳の若さで亡くなったので、伝説の英雄になれた。フィデルは半世紀の長きにわたりキューバにおける社会的、政治的、経済的な決断のすべての責任をとってきたので、英雄というよりは実務家です。ただ生活に密着しているという点では現代キューバ社会の創造者、つまり神に近い存在なのかもしれません。それは良い意味でも、悪い意味でも、ですが。

海堂 キューバを外側から見ると、フィデルは独裁者とみられることもある。でも中南米をはじめとして、独裁者は多くいますが、これほど多くの人に支持され続けた人は他にはいません。私はそんなフィデルを描いてみたいんです。

©橋本篤/文藝春秋

パドゥーラ フィデルは、20世紀の主役の1人です。フィデルがアメリカという巨大な国に反帝国主義者として敢然と立ち向かった姿勢こそが、世界で広く受け入れられた要因の1つでしょう。たとえばアフリカではフィデルは神の如く崇められています。アフリカの多くの国々の独立を助け、医者や教員を派遣し、地道な支援を続けていましたから。

海堂 そうした第三世界の弱小国に対する配慮は評価が高いですね。多くの日本国民は広島、長崎の原爆投下に対し、一貫して「あれは虐殺だ」と、非難声明を出し続けてくれたことには、大変感謝しています。

パドゥーラ 海堂さんの「ポーラースター」シリーズは、アンビシャスなプロジェクトです。きっとあなたは、独自の方法論を確立しているでしょうから、私からアドバイスを1つだけ。私は、『犬を愛した男』を描くのに5年。その後、『エレヘス』(未翻訳)に5年。この2冊で10年を費やしました。私の人生の6分の1です。キューバにはこんな格言があります。「1冊の本を測るのはページ数でではなく、時間とケツだ」と(笑)。

海堂 アドバイスは身に染みました。どれだけの時間を机にむかって過ごしたか、ということですね。アメリカ大統領のニクソンが「鉄のケツを持っていた」というエピソードを思い出しました。つまり「ハラをくくれ!」ということですね(笑)。

パドゥーラ 作家はアンビシャスを持つことが大切です。ポーラースターというプロジェクトに挑む海堂さんに、幸運が訪れますよう、祈っています。

通訳/翻訳●中谷綾子アレキサンダー
協力●インスティトゥト・セルバンテス東京
https://tokio.cervantes.es/jp/default.shtm

海堂尊
1961年、千葉県生まれ。医師、作家。
第4回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、2006年、『チーム・バチスタの栄光』(宝島社)にてデビュー。同シリーズは1000万部を超える。

レオナルド・パドゥーラ
1955年、キューバ生まれ。
探偵マリオ・コンデを主人公とする推理小説シリーズが国際的なヒットとなる。2015年にアストゥリアス王女賞受賞。

ゲバラ覚醒 ポーラースター1 (文春文庫)

海堂 尊

文藝春秋

2019年2月8日 発売

ゲバラ漂流 ポーラースター2 (文春文庫)

海堂 尊

文藝春秋

2019年3月8日 発売

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